• 原田眞人の『突入せよ!「あさま山荘」事件』をamazonで見る。現場のどたばたを見て笑うが、日本の組織のずるずるな駄目さが露わになって、やがて泣き笑いのような気持ちになってくる。アイリッシュ・フォーク風の音楽でごまかそうとしながらも、この駄目さを、結局は駄目なのだと描いているのは好感が持てる(篠井英介の絶叫は面白いが、それでまとめにしてしまうのは弱くないか?)。最も合理的な判断ができる人物として描かれているはずの、役所広司の演じる佐々でさえ、やがて、何でそうなったのかよく判らない空気のようなものに巻き込まれて、なぜか最前線で身を晒すことになるのだから。しかしこれではヘラクレスではなくてシーシュポスなのではないか。いや、じぶんはヘラクレスなのだとごまかしているシーシュポスなのだろう。
  • ずっと家に籠って書き物をしている。

  • 身体が疲労のゼリーでできているような感じが続いていて、数か月ぶりにようやく時間を作って仕事の帰りに鍼に行く。ストレスが溜まっていて、浮腫んでいるとのこと。ぶよぶよした疲れの靄の塊みたいだった身体が、ようやく分節化された気がする。

  • 通販で頼んでおいた『マーク・マンダースの不在』の図録が届く。この展示をしている都現美は、結局今も開いていない。ぱらぱらと捲ったあと、柚子に渡すと、「マンダースの作品は、放っておくとそのまま消えてゆきそうな感じがある」という。マンダースは脆い。しかしそれをブロンズで作っているのが面白いが、材料の性質で抗ったとしても、脆弱性シミュラークルだとしても、やはり消滅の予感は、その作品からは拭い難い。ブロンズで作っていない、半透明のビニールとか展示室の隅の粘土屑こそが、マンダースの作品の出発点(でありオメガ)であるような気がする。
  • 柚子は、「ボレマンスはとても強かった」ともいう。金沢で見た二人展は、ボレマンスの強さとマンダースの弱さがせめぎあいながら、あの空間が立ち上がっていたので、とても良かったという。布や板に油で描いているボレマンスの強いタブローと、マンダースの弱い彫刻というのは、私もそのとおりだと思った。

  • コンビニで買ったタピオカミルクティを飲んでいたら最後に残ったタピオカのひと粒を強く吸って喉の奥にぶち当ててしまい、痛い。帰宅してテレビでニュースを見ていると日本国民であることを日本国の政治家に馬鹿にされているようで苛々してくるので、パリ・オペラ座の《モーゼとアロン》をデッキに突っ込んで見る。カステルッチのこの演出はかなりいいと思う。フィリップ・ジョルダンの指揮もシェーンベルクの音楽の面白さをとてもクリアに伝えている。

  • 朝、栄のホテルを出て、写真を撮ってあちこち歩きながら名古屋駅まで出る。毎日ガイシホールまでSKEのライヴを見に行く仕事ならいいのだが。
  • 昼の部は緩い。終わってから金山まで戻り、写真を撮る。バッテリーが切れたので、駅前の中華料理屋で台湾ラーメンを食べる。
  • 夜の部の松井珠理奈卒業コンサートは、ものすごいものを見たという感じだった。
  • 野島樺乃がソロで歌った《泣きながら微笑んで》と、井田玲音名がセンターを担当した《思い出以上》がめちゃくちゃ素晴らしかったのはさて措き、まるで「忠臣蔵」を見ているかのようだった。
  • 最後のスピーチの直前から、珠理奈が名古屋弁まるだしで喋るのに驚いていると、スピーチが始まり、彼女が真っ先に言葉を掛けたのは、外のファンにではなく内のSKEメンバーに向けてだった。
  • 愛憎が激しく渦を巻いているようなスピーチのあと、やがて、珠理奈はメンバーたちの作った人垣の間を、諭し、慰め、声を掛けながら進んでゆき、暗い穴倉に入って、消える。
  • 珠理奈を見送っているメンバーたちはこのとき、紅白の時の《不器用太陽》の血飛沫のようなオレンジに染まる装束を身につけている。珠理奈が去ったあと、メンバーは珠理奈の作詞した《オレンジのバス》を初披露して歌う。これが珠理奈の辞世でなくてなんだろう。
  • 最後の最後まで、メンバーとSKEのことだけを、オブセッションのように考え(捉われ)続けて、そのまま消えていった松井珠理奈。あまりにも重すぎるとこれを嫌う人もいるだろう。彼女が背負ったのではなく、背負いこませたということもできるだろう。しかし、ここまでやりきった人もいないだろう。
  • 昨日、鳥籠に乗って垂直に昇っていった高柳明音と、暗い地面に降りていった松井珠理奈。SKEへの愛は人一倍だったふたりだが、あまりに対照的な幕切れだった。どちらがより胸に迫ったかと言えば珠理奈だが、これは私の好みだろう。
  • 帰宅して、そのまま居間で眠ってしまう。

  • 夜の天気予報でアナウンサーが言った、「広くおだやかに晴れたところ」という言葉が、とてもいいと思った。それは彼の読み方だったのか、語の並びが、私の記憶の中から何かが喚起された気持ちよさなのか。

  • TWICEの『Eyes wide open』はポップスのアルバムとして、とてもいいと思う。坂本龍一のポップスの試みのような《HELL IN HEAVEN》とかシティポップみたいな《SAY SOMETHING》とか本当に佳曲ぞろいで、しかも《BEHIND THE MASK》という曲で終わる。