- グスタフ・マーラー『交響曲第9番』指揮:ブルーノ・ワルター、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
- マーラーの交響曲のなかで、いちばん好きなのは第9である。交響曲と云う広大なジャンルの中でも、この曲は至高のものではないかと思う。繰り返し聴いている盤は幾つかあるが、そのうちの一枚がガリー・ベルティーニがケルン放送交響楽団を振ったものである。このコンビのライヴを、私は1990年11月27日、フェスティバルホールで行われたマーラーの『復活』で体験している。14歳の私は、音楽を聴いて涙が止めどなく流れることがあると云うことを、初めて知った。次の日の第5交響曲では、昨晩のような感情の昂ぶりに襲われることはなかった。私は、得難い経験をしたことを知った。
- ベルティーニのものと並んで、好んで聴いているのが、ブルーノ・ワルターが1938年のウィーンで振ったライヴ盤である。数あるマーラーの第9演奏の中でも、それが埋め込まれている歴史的な背景を含め、屈指の名演の記録とされるものだ。中古CD屋で安く買ったものをずっと聴いてきたのだが、art処理されたCDはさらに音が良いと云う悪魔の囁きを何処かで読んで、ずっと気になっていた。で、遂に買ってしまった。
- くろぐろとしたものを時折覗かせながら、しかし駘蕩たる響きと僅かに速いテンポは崩れることなく最後まで維持され、そしてやがて、静かにドアを閉じて出てゆく。夜に向かってさまざまに色を変えてゆく黄昏時の空が想起される。とても豊かな演奏。
- アルバン・ベルクはマーラーの第9に就いて、彼の妻への手紙の中で次のように述べている。「最高に素晴らしい」。この言葉に、私はただ黙って頭を垂れる。