このバスは、ラス・メイヤー牧場行き

  • 義姉と姪が帰る。午後過ぎ、菊地成孔のライヴの整理券を求め、独りで梅田へ。
  • 堂島の喫茶店に入り、別宮暖朗の『軍事のイロハ』を読み終わる。このひとの本は、キッシンジャーの『外交』並みに勉強になる。続いて、トマス・ピンチョンの『V.』を読み始める。6時過ぎ、Uくん来る。昨夜の話の続き。7時半に柚子とF大兄と合流、Vノートならぬブルーノート大阪へ。
  • 「大体ジャズとあれは良く似ている」と書いたのは『風雲ジャズ帖』に於ける山下洋輔だが、故に菊地成孔のサックスはセックスに通じ、ちょうど私の席からは、菊地氏がその楽器を奏でるさまは、まさに櫓立ちの体位を思わせた。いわゆる駅弁ね。渋い金色の管楽器のボディのあちらこちらを這い回る氏の白い指は或る種の昆虫のようで、実に猥褻。彼の隣で、黒いパンツ・スーツの襟刳りは臍の辺りまで深く、その奥に素肌を晒したカヒミ・カリィが歌う。そしてこちらは、口腔に旨い食べ物を詰め込み、カクテルを流し込みながらそれらを眺めているわけで、食欲と性欲が鼓膜の震えと共に攪拌されて、嗚呼、日本のジャズは歓楽街の、ストリップ劇場の音楽に他ならぬ。ならば、菊地成孔のジャズさえあれば、他のジャズなどもう要らない。
  • 昨年、西部講堂KQLDを初めて見たときは、そのエッジの鋭さに、全身にぴりぴりと緊張すら覚えたほどだが、今夜、親しい友人たちと最愛の女性の間に座って聴いたその音楽に、私の四肢は弛緩しきって、赤ん坊のようにへらへらと笑っていた。
  • 〇時過ぎ、帰宅。