多くの囚人仲間が殺され、女性や子どもの囚人も拷問を受けて悲鳴をあげていた。ある夜、最終的に他の三七人の囚人全員が連れ出されて殺された。しかし彼だけが助かった。なぜか。その約三週間前から、彼は十代の子ども看守たちに、イソップ物語や動物の話を話して聞かせていた。子ども看守たちは、目を輝かせて聞いた。学校にまったく行っていない子どもたちには、それこそ新鮮で興味深い物語だったろう。彼は「物語名人」として敬意を表されるようになった。だから、囚人を殺せとの命令を上から受けた時、彼らは話し合い、「物語名人だけはもったいないから殺さないでおこう」と決めたという。(146頁)