渡欧する

  • 荷物を作ってからは眠らず。
  • 家の前までタクシーを呼び、トランクと肩掛け鞄の荷物ふたつを携え、柚子に手を振り、空港へ向かう。
  • 三宮からバスで、関西国際空港*1へ着き、旅行代理店のカウンターで往復のチケットを受け取り、フィンランド航空*2のカウンターでトランクを預け、身体検査やら旅券の確認などを受けて、おたおたと空港の奥へ。海外旅行は初めての経験なので、ドキドキしつつも総てが面白い。
  • 各社の飛行機が外に見える誰もいない長い廊下で、我ながらベタだなあと思いながら、砂原良徳の『TAKE OFF AND LANDING』をiPodで聴く。その後、晩年のフルトヴェングラーが振る『トリスタンとイゾルデ』なども。
  • 音楽を聴くのに疲れて、枕みたいな分厚さの菅野昭正『ステファヌ・マラルメ』をベンチで読み始める。隣に座っていた支那人の女性ふたり組が、白人男に日本人と間違えられて「コンニチハ!」「ナニシテルノ?」「ドコイクノ?」とナンパされて、男が去ってからぶりぶり怒っていたのが面白かった。ちなみに、今回の旅行に持ってきた本はほかに、ムージルの『特性のない男』の第一巻(新潮社版)、『トリスタンとイゾルデ』の日独併記のリブレット*3、『地球の歩き方/オランダ、ベルギー、ルクセンブルク』、『ひとり歩きのフランス語自遊自在』である。
  • その後、出発ロビーに向かう。何とか帳尻を合わせたと思っていた仕事、相手が納得していないそうで、私を乗せて欧州へ向かうフィンランド航空の飛行機(ボディにはサンタクロースがペイントされている*4)を横目に、社長と携帯で話し、謝る。
  • 飛行機が離陸するときの、何とも云えぬ解放感は、殆ど射精のそれ。不謹慎だが、高飛びするときの犯罪者の気持ちが判る。海外旅行に出る際には、些かモヤモヤを抱えている方が良い!?
  • 窓際の席で、飛行機の左翼のちょうど付け根の部分に当たる座席だった。iPodを引っ張り出し、『ステファヌ・マラルメ』の続きを読む。
  • 離陸から1時間半。昼食を終え、男前の金髪メガネ男子の客室乗務員が持ってきてくれたほうじ茶を飲んでいると、ロシアの大地が見えてくる。
  • ギーレンの振ったトロトロに甘いマーラーの「第10番」を聴き、機内食の弁当で胸焼けを起こし、菅野昭正渾身のマラルメの青春の評伝を読み進め、ティーレマンの振る『トリスタンとイゾルデ』を聴き、突然オペラグラスを忘れてきたんじゃないかと焦り、鞄の中に腕を突っ込んで漁り、ほっとしたりする。
  • しかし飛行機と云うのは離着陸のときを別にすると、目を閉じて過ごしていると猛然と速度を出して走っている高速バスに乗っている体感に、まるで変わらないのだ。
  • だらだら過ごしているしかなく、だらだら過ごしていて、ふと、iPodの時計を見ると17:30。おお、会社の終業時間だ。飛行機の中で腕時計の針を戻したので、私の時間は11:30だ。みみっちい喜びを覚える。
  • だらだらついでに写真を撮る。ロシア上空にて*5
  • 玩具の国のような風景を眺め下ろしながら、雨のなか*6、3時、フィンランドヘルシンキ・ヴァンター空港*7に到着。携帯電話が震え、何かと思うと電話会社から日本へのコールの方法を指南するメールも、柚子や友人たちからのメールと共に、到着する。