ケネス・ブラナーは愛い奴だ!

  • 試写でケネス・ブラナーの『魔笛*1を観る。歌詞は英訳されているが、モーツァルトのオペラの全曲を映画にしている。するするとよく動きまわるキャメラに象徴的だが、舞台上演ではできない、映画でしかできないことをやろうと云う企みが随所に現われている。
  • ブラナーは、オペラの舞台を第一次大戦風の戦場に設定している。冒頭から、縦横に延々と掘られた塹壕と泥だらけの兵士たち、鉄条網と疾駆するタンク、ずらりと並べられた野砲、空高く編隊を組んで飛ぶ複葉の戦闘機、それらの上を、モーツァルトの序曲の旋律が美しく転がってゆく。その後も、タミーノに襲い掛かる大蛇は毒ガスで、夜の女王の三人の侍女は従軍看護婦の装い。防毒マスクを付けたパパゲーノ(此奴が非常に巧い。ベン・デイヴィスと云う英国のミュージカル俳優だとか)も、毒ガスとカナリアの組み合わせの妙味で、もう愉しくて仕方がない。とどめは夜の女王、クシャナ殿下よろしくタンクの真上にすっくと立って現われる。『ハムレット』のときもそうだったが、ケネス・ブラナーはこっちの見たいものをちゃんと見せてくれる愛い奴だ。ジェイムズ・コンロンの指揮する演奏は機敏で、映画のテンポによく合っている。
  • 『戦争指揮官リンカーン』を読んでいる。南軍の名将ロバート・リーが戦場で幕僚に語った言葉。

戦争がむごたらしいことはいいことだ。そうでないと、われわれは戦争が好きになり過ぎるかもしれない。

  • 父親から電話。先日の面接はどうだったと訊ねる父に、ダメだったと軽く答えると、ずいぶん落胆していた。すごく心配してくれていることが判る、父のそんな声を聞いたことがなかったので、とても悪いことをしてしまったと云う気になる。