断じて「キュート」ではない

  • 大阪音楽大学へI嬢の作曲した新作の発表会を聴きにゆく。
  • 現代音楽には、まだ開拓すべき分野が残っていたことを教えられた。
  • それは「かわいい」である。
  • 「かわいい現代音楽」を、今日初めて聴いた。いや、視聴したというのが正確だろう。
  • 「街がきこえる」と題されたI嬢のそれは、マリンバのための独奏曲である。乱れ打ちの技巧的な演奏と沈黙が交差しながら展開される、比較的オーソドックスな美しさの現代曲だと思って油断していた頃、それは起った。
  • 奏者が突然、マリンバの鍵盤に、大小色とりどりのスーパーボールをぶちまけたのである。
  • キャンディがいっぱい盛られた器を引っくり返したかのように、極彩色のゴム製のボールたちはあちらこちらへ、鈍い音を響かせながら舞台上をぽんぽん跳ね周り、幾つかは客席まで勢いよく飛び出してゆく。
  • それはたぶん、現代美術のハプニングなどに連なると整理されるのだろうが、兎に角、私はすっかり目を奪われた。ヤラれた!と素直に感心した。
  • ひとつだけ注文をつけるなら、曲のタイトルだろうか。何だかとても勿体ない気がするのだ。
  • I嬢の演奏を聴いてから、大学を出て、近所で見つけた小さな古本屋(微妙に新刊も扱っている?)に入り、白川静の『漢字』を買う。老店主に「漢字ベンキョーするンかいな。頑張りや」と云われる。それは彼の口の中でモゴモゴと発音されたので、私は初め、「ベンキョー」だけしか聞き取れず、てっきり負けてくれるのかと思ったら、そうではなくて、結局200円のままだった。