七月大歌舞伎を観る。

  • 柚子と連れ立って、大阪松竹座で「七月大歌舞伎」*1を観る。
  • 「はり重」でビフカツのサンドウィッチを頼み、「丸万寿司」でお寿司を買い、ampmでジュースを買い、初めての松竹座に。
  • 「鳥辺山心中」。如何にもオーソドックスな歌舞伎で、高校生の頃、亡くなった母方の祖母と、その踊りのお師匠さんたちと出かけて以来、すっかり御無沙汰で、歌舞伎再入門の今日の私には、ちょうど良い滑り出し。世慣れた遊び人の武士を演じる坂田市之介を演じる片岡秀太郎が良かった。幕間に食事。
  • 「身替座禅」。恐妻家で女好きの大名、山蔭右京を演じる仁左衛門の剽軽なさまが、何とも可笑しい。しかし、ものすごく品がある。だからこそ、面白い。
  • 女殺油地獄」は河内屋与兵衛を演じた海老蔵、すっきりと美男で、ギトギトのノワールを演じた。アニメでよく聞くような居心地の悪い大阪弁は、成るほど些か難ありだが、やはり目にものすごく力がある。花道を、着物の袖で顔を隠し、目だけ晒して去ってゆく際には、どきりとさせられた。軽薄で見栄っ張りで、しかも転落の運命から逃れられるほどの強さはまるで持ち合わせていない与兵衛と云う男を、たったそれだけでも表現していた。
  • 豊嶋屋の女房のお吉を演じた片岡孝太郎が、素晴らしかった。
  • 最後の殺害の場では、まるで逃れられぬ悲劇を唆すかのように、時鐘が遠くで鳴る。ボードレールが電燈の普及でパリの夜がなくなったと嘆いたように、江戸の闇は、今とは比べ物にならないくらい深かった。真暗な舞台のなか、殺して金を奪おうとする与兵衛と、兇刃から逃れようとするお吉が、もみ合う。もみ合ううち、油の入った樽が倒れ、ひたひたと油が流れ出る音が、何とも怖ろしい音楽となる。奥では、お吉の赤ん坊が火が点いたように泣いている。やがて、月岡芳年の無惨絵のような殺害の場が終わり、油まみれで着物から何から全身ドロドロになった与兵衛が、刀を鞘に収めようとするが、手が震えて、なかなか切先が鯉口を捉えない。そのガチャガチャと云う冷たい音が、凄まじい。野良犬に吠え立てられながら、花道を与兵衛が逃げてゆくところで、幕。強烈なノワールで、大満足。
  • 与兵衛の義父である河内屋徳兵衛を演じる歌六、与兵衛の母おさわを演じる竹三郎も涙をしぼる芝居を見せ、良かった。
  • 大変満足して梅田まで戻り、ブックファーストの漫画専門店に立ち寄り、orgでお茶をしてから、帰る。