姑、逝去。

  • 昼過ぎ、義姉から家に電話。姑の容態が急変とのこと。会社に出ている柚子にも連絡。
  • 病院まで最も速く着く手段である自転車を漕いで駆けるが、間に合わず。母方の祖母のときも、死のときには立ち会えなかったので、このたびもそうではないかとペダルを踏みながら、ちらりと思ったが、やはりそうなった。
  • 義姉の話だと、正午ごろ到着すると、昏睡状態で、その後みるみる悪くなり、半時間弱でこと切れたとの由。姑の額に掌で触れると、まだ充分に暖かい。やがて柚子も来る。
  • 担当医や看護婦さんたちと挨拶。
  • やがて、看護婦ふたりと義姉と柚子が、笑いさざめきながら姑を囲み、顔に化粧を整える。
  • 姑が生前に手筈を整えていた葬儀会館から、車が迎えにくる。その前に、義姉の車で彼女と柚子は帰宅。
  • いつの間にか雨が降り出している。姑が病院の地下の駐車場から、白布にくるまれ、寝台車で自宅に帰ってゆくのを、担当医ふたりと、看護婦ふたりと一緒に見送る。人びとの顔の表情は、意外なほど、くしゃくしゃになっている。もちろん、これを意外だと思うのは私のステレオタイプに過ぎる思い込みの所為であって、日々、死が繰り返し訪れているだろう職場におられる方々でも、やはり、個別の死に接するとき、それがたとえ次の仕事に戻るまでの短い時間であったとしても、こんなふうな顔をしてくれるのだと云うことを知ると、こちらはひたすら、ふかぶかと感謝の念を抱くのみである。大変お世話になりました。
  • 寝台車を追いかけるようにして、雨の中を帰宅する。涙雨と云えば抒情的だが、冷たく鋭い冬の雨を浴びながら、傘も合羽もなく、自転車を漕がねばならない身には、まったく、たまったものではない。
  • びしょびしょのコートを脱ぐ暇もなく、会館のひとと一緒に、担架に乗ったままの姑を、庭から室内に運び入れ、蒲団に寝かせる。病院での姑は、身体の位置を変えるときは、じぶんで必ず「ワン、ツー、スリー」と号令を掛けるのが常だった。
  • 葬儀社との相談の結果、喪主は私が順当だと云うことになる。ところで骨壷だけは、死ぬ前にきっと用意しておこうと思った。箆棒な値段なのだもの。