通夜。

  • 彼女がいなければ判らない仕事を片づけるため、柚子は朝イチで職場に。
  • 朝八時過ぎ、風呂に入ろうと思っていると、姑の友達から電話があり、今から訪問したいとの由。烏の行水。
  • ご友人(姑が入院していた頃、お見舞いに来てくださったときの話をしながら、はらはらと涙を流された)の帰宅後すぐ、柚子が帰ってくる。
  • そして私は入れ替わりに、喪服を買いに、元町まで出る。駅前の百貨店でパッと見繕い、裾上げの二時間の間に、柚子の足袋を買い、それから三宮まで足を延ばす。先日、残念ながら閉店した後藤書店の店先で「謹呈」と札を立てた段ボール箱の中に突っ込まれていた古本の中から、表紙がなくなった宮崎市定の生活社版『菩薩蛮記』、ジャック・ベッケル映画祭や『ゴダールの決別』のパンフレットなどを頂戴する。さらに恒例の「さんちか古書大即売会」にたまたま遭遇し、タワーレコードなどを覗いて、MR氏とちょっと電話で話し、時間どおりに百貨店に戻ってスーツを受け取る。
  • 帰宅すると、義姉夫婦が既に来ている。彼女たちは私のスーツが間に合わないんじゃないかと、ヤキモキしていたのである。やがて会館から迎えの車がきて、姑を運んでゆく。その後われわれも荷物を抱えて、会館に移る。
  • 姑の身体を清める場に義姉と柚子と共に立ち会う。浴槽から蒲団の上に移す際、係のひとたちと一緒に、姑の両足を抱えたが、吃驚するくらい冷たかった。太い足の骨が、すっかり氷にすげ変えられてしまったかのようだった。その途中で、私の両親と祖母がやってくる。
  • 夕方から、会場に入り、葬儀社のひとから段取りの説明を受ける。やがて、親戚が次々とやってくる。いちおう、私は「喪主さま」であるから、ホールの入口で柚子や義姉夫婦と共に立ってお迎えするのであるが、如何せん、姑に連なる親戚の方々とはこれまで、一人として面識がなく、私にとっては結局、通夜席も含め、柚子の夫としてのじぶんを紹介するような場所になる。そのなかのひとり、競馬と競艇とパチンコが好きだと云う御仁からえらく気に入られる。金遣いが荒いのは成るほど同じなのだが、私はそのどれも嗜まない。しかし、実際姑は皆から、充分に慕われていたようだ。実際、私のような訳の判らない男さえウチに受け入れてくれたひとなのだから、そりゃ慕われるに決まっているのだが。
  • そのまま葬儀会館に泊り込み。柚子と義姉、そして私の父が泊まる。疲労で柚子は炬燵ですぐに寝入り、父と義姉は食堂で、何やら難しい話をずっとしている。炬燵で本を読んでいた私もやがて両瞼が重くなる。