『人のセックスを笑うな』を観る。

  • 昼までうろうろと眠り、柚子と昼食を食べ、皿を洗い、届いたばかりの『意志の勝利』をDVD*1で眺める。全編を通して観るのは、昔まだ堂山町にあったプラネットで観て以来。だが久しぶりに観ても、その或る美学の徹底に於いて、まったくよくできている。云ってしまえば他所の会社の大運動会の記録映像なのだが……。ナチスの持つアノニマスとマッスの美しさを写し取ったのではなく、それらの美しさと云うものは、リーフェンシュタールのこの映画が発明し、ナチスに与えたのだ。しかし、ヒトラーを筆頭にナチ幹部たちの絶叫調の演説に、よくこれだけがなり立てるなぁと辟易(ンなこと云いながらガキの頃はそれが大好きだったんだが・苦笑)。しかしゲッベルスは今見ても悪くない。附録で収められた20分ほどの短篇、1935年に撮影された『自由の日』でも、リーフェンシュタールの美学はさらに洗練されている。
  • 午後遅く、用事がある柚子と一緒に家を出て、私は独りで三宮から元町をぶらり。
  • ちんき堂や汎芽舎を眺め、汎芽舎では『美術手帖』の買いそびれていたマシュー・バーニーの『クレマスター』の特集号を拾い、ぶらぶらとモトコーを抜け、シネカノン神戸で、井口奈己監督の『人のセックスを笑うな*2を観る。
  • この監督の映画は初めてで、原作も未読だが、すごくよくできた映画だった。
  • カットを細かく割ることをせず、ワンカットの深い呼吸感で見事にみせる。さらに、それらの端整なフレームに経過する時間を不意討ちするように、だしぬけに生起する「動き」の緊張感が、ずば抜けている。語の精確な意味で、これぞ、アクション映画。例えば土手を自転車で走るシーンに注目せよ。
  • そして同時に、大変見事な冬の映画である。しんと冷えた空気と、そのただなかでの、じんじんとした発熱(もちろんそれは発情、と呼んでもよい。ストーブ、キス)が画面に漲っている。しかしベタベタと粘っこい映画ではまるでなく、とてもすっきりとしている。
  • 役者たちが皆大変よい。蒼井優の驚くほどのしなやかさだけでなく、主演のふたりも、あがた森魚桂春團治も素晴らしい。また、木村威夫の美術が、本当にみずみずしい。
  • もういちど観てもいいなあと思う映画だった。
  • 柚子と待ち合わせて、帰路に。

*1:http://www.amazon.co.jp/Triumph-Will-Rmst-Spec/dp/B000E41MRC/ 世界中のamazonがリージョン1と記載しているが実際はリージョンフリーなので御心配なく。

*2:http://hitoseku.com/