きょう届いた新刊

  • 武藤康史『文学鶴亀』(国書刊行会
    • 古本屋の棚を眺めるとき、私は其処で、ずっと探していた本を、或いは、その存在さえ知らなかったような本が、こちらに背を見せるのを夢想しているものだが、同様に、新刊本屋の棚でも、私は始終、白昼夢を見ている。それは所詮は夢だから、滅多に現実の棚とは無関係なままなのだが、数年に一度ぐらいの割合で、いきなり、夢のようなことが現実の棚で起こる、そういう事態に出喰わす。武藤康史の本が、遂に刊行された、と云うことは、私にとって、つまり、そういうようなことなのだ。
    • 武藤康史片山杜秀は、私には「何でこんなにたくさん、しかもいつも面白いものを書くのに単著を出さないのか!?」と云う書き手だったので、このふたりの本が出るようになったことは、非常に嬉しくて仕方がない。何を云うんだ、片山杜秀は兎も角、武藤康史の単著は例えばちくま文庫から『旧制中学入試問題集』などが既に出ているじゃないか、と仰る方がおられることは承知しているが、私が欲しかった「武藤本」は、いわゆるアンソロジィではない。私は、武藤康史の書いた随筆を集めた本が欲しかったのだ。無論、彼が選書家(!?)やアンソロジストとして抜群であるのは云うまでもない。昔、角川文庫から出ていたブックガイドのシリーズの、武藤康史が書いたページで、私はリットン・ストレイチーを、のんのんずいずい、と云う言葉と共に知り、今泉忠義の『源氏物語』の訳がどれほど素晴らしいかを教えられたものだ。片山杜秀と同様、まだまだ本にできる原稿は山ほどあるはず。さっそく、次の「武藤本」が書店の棚に並ぶのを、愉しみに待っている。