『乱れる』を観る。

  • 成瀬巳喜男『乱れる』をDVDで観る。これは恐ろしい傑作だった。ライティング、美術など、すさまじく完成されている。
  • 高峰秀子は画面のなかでその悪声でぶつくさ文句を云わねばならない。『女が階段を上る時』では、成るほど高峰秀子の声ではあるが、画面の外からの白々しいナレーションがそれを乗っ取っていたのがいけなかった。
  • また、『乱れる』では、店舗と住居のそれぞれのスペースの間に、薄くて小さな板が架けられていて、その上を高峰が歩く。彼女の居場所は其処にしかないのだ。加山雄三が演じる義弟との秘めた恋も、結局は成就しないで、悲劇的な結末を迎えるが、それは高峰秀子の演じる女が、橋の上の女だからに他ならない。彼岸にも此岸にも、彼女は安らげないのだ。
  • 成瀬の映画には如何なる赦しも救いもなく、ひととひとが結局、離ればなれになるだけなのがいい。