『ランジェ公爵夫人』を観る

  • 昼から高速神戸の古本屋を覗き、木曜日は千円で見ることができるので、新開地の神戸アートビレッジセンターに行き、ようやく大好きなジャック・リヴェットの『ランジェ公爵夫人*1を観る。
  • リヴェットの映画に接すると、目が耳になり、耳が目になる。観る前にウェブを彷徨いていたら何処かで「退屈な映画」だと評していた方がおられ、大丈夫だろうかと少し心配しながら銀幕の前に座ったが、この映画の何処で退屈することができたのか、私には本当に不思議だ。
  • 物語は、パンフレットで鹿島茂も触れていたが、謂わばポーリーヌ・レアージュの『O嬢の物語』のような、ギリギリと弓を引き絞ってゆくような恋愛劇なのだが、退屈しないと云うのはドラマの進行だけに由来するのではなくて、やはり目と耳に関わることだ。つまり、裏側の真空の宇宙が透けているような空の青。将軍のステッキの握りの銀。黒の軍服を飾るモールに、瀟洒な貴族たちの邸宅の壁を縁取る金。或いは、こちらが予測する歩みのリズムとは微妙なズレを伴って、ドス、ン、ドスン、ドスン、と歩く義足の将軍。衣擦れの音のほかは猫のように音もなく歩む公爵夫人。そして最後の台詞のあと、スッと横を向くキャメラの非人情(非人称?)な滑らかさが、途轍もなく美しい。
  • 郵便局に寄ってから、帰宅する。