朝眠る。

  • 朝、柚子が起き出してきて、「おはようございます」と挨拶を交わしてから、私は彼女がさっきまで眠っていたぬくい蒲団に潜り込んで眠る。正午になる前に起き、柚子が作り置いていった、猫の顔がケチャップで描いてあるオムライスを温めて食べ、新聞を眺めると、ビリー・ワイルダーの『皇帝円舞曲』がこのあと放送で、慌てて姑の使っていたヴィデオ・デッキにテープを挿し込んで録画を準備して、洗濯機を廻し、機械が止るとドラムからひと繋がりになった洗濯物を、古い手品師の万国旗みたくずるずると引き摺り出し、籠に入れて二階のベランダへ上がる。階下の薄暗がりの居間で、ヴィデオ・デッキは低く唸り、廻りながら私の代わりに映画を観ている。
  • 夕方、ジャケットにタイを締めて、アルバイト先に出掛ける。
  • 帰り道、柚子と会う。お互い別のルートで帰宅し、素麺を食べる。
  • 真夜中、ロベール・ブレッソンの『シネマトグラフ覚書』を読み続けている。

眼が刺激されると、ただそれだけでもう耳は待ちきれなくなる。耳が刺激されると、ただそれだけでもう眼はうずうずする。(……)