- 洲之内徹『洲之内徹文学集成』(月曜社)
- 新潮社はクレスト・ブックスを始めるずっと以前も、かなりいい海外文学の翻訳を出していた。しかしその殆どを絶版にしたままで、文庫にするでもなく、放ったらかしている。ピンチョンの全新訳は嬉しい限りだが、新訳ばかりが能じゃない。例えば、既にいい訳があるナボコフの『プニン』を、スッと文庫にしてみてくれないか? しかし私が新潮社に最も期待しているのは、洲之内徹の「気まぐれ美術館」の残り三冊が文庫で出ることだ。文庫版の『絵のなかの散歩』と『帰りたい風景』はちょうどぴったり一年おきに出たから、私はその調子でぽつんぽつんと三年ほど掛けて文庫でこのシリーズは総て出るのだと皮算用していた。うまくすると洲之内の小説まで出るんじゃないかとさえ思っていた。ところが、さっき調べてみたら、その文庫版既刊の三冊も、品切れになったまま放ったらかしにされているようだ。何をそんなに新潮社に期待していたのだ、馬鹿じゃないのか、と云われれば返す言葉もない。
- 東京白川書院から出た青と茶の二巻組の洲之内(さっきから私は、すのうち、と打ち込んでは提示される「素のうち」や「巣のうち」、「酢の内」等々のなかから「須之内」を選び、頭の「須」を削って次に「満洲」と打ち、「満」を削り取っている。俺のパソコンの癖に洲之内ぐらいぴゅっと変換せんかボケ)の『小説全集』は近所の図書館に所蔵されていたので、借りてきてちょっとだけ読み、これは持っていて読まなきゃ駄目だと感じ、結局現物は十年以上を経て今に至るも古本屋では見たことはなく、ウェブで捜して出てきても、その値段に気後れして、とうとう買わずに今になった。このたび月曜社が出してくれて、いよいよ後先考えずに買った。