楊徳昌は此処にもいない。


  • 屋上に併設された食堂で朝食を食べてから部屋に戻り、「Don't Disturb」の札を下ろして風呂に入り、NHKのニュースを見てグダグダ。観光ガイドを読み、取りあえず「中山站」までは徒歩で行けるので出て、ぶらぶら裏町を歩いていたら旧米国大使館の前にいた。現在は「台北之家」と云う名前で、映画館と書店が併設されている*1。カフェもあり、その名も「珈琲時光」。さすが侯孝賢のプロデュースした店。少し値段が高かったので入らなかったけれど。併設の本屋の品揃えが非常に渋くて、欲しかったタルコフスキーのポラロイドの写真集の台湾版が出ていて、しかもタルコフスキーのメモが漢詩みたいで恰好よく、思わず買い求める。DVDもずらりと並んでいて、監督毎に纏めたボックスもいろいろあるのだが、台湾ならきっと全部あるだろうと思っていた、エドワード・ヤンのものがなかったのはとても残念。
  • 其処を出て、ぶらぶらと歩き、「台北當代藝術館」*2に。現代美術専門の美術館。日本統治の頃は学校で、戦後は市役所として使われていたらしい。とてもいい建物。「2008台北數位藝術節」(第三回台北デジタルアートフェスティヴァル2008)の「超介面─TRANS─」と題された展覧会をみる*3。ソニア・チッラリの大変エロティックな作品《Se Mi Sei Vicino (If you are close to me)》 が素晴らしく(学芸員の女の子が、さあもっと近寄っていいわよと云うジェスチャをするので、両腕を上げて襲い掛かるふりをしたり、彼女の周りをうろついたりする)、睦鎮耀による《音樂圓柱》と題された発光する巨大な電子オルゴールは、ぜひMT君に演奏させてみたいと思った。あとは、王仲堃による《瓶、聲響》と題された、ガシャン、バキャン、ビシャシャシャシャと音を立てては、瓶笛をブォォオオオオオオォォ……と吹いてみせる機械(楽器)と、古今東西の有名人のポートレイトをタッチパネルでぐいぐい変形させるTseng Wei-Chiehたちによる《變・相》も面白かった。
  • だがしかし、それらの展示以上に素晴らしかったのが、学芸員(じゃないな。たぶんアルバイトで展示の説明をしている大学生だろう)の女の子たちの可愛さ。特に、かしゆかっぽい顔に眼鏡を掛けたすんごい可愛い娘さんがいて、あんまり可愛かったので思わずまじまじと見てしまい、「なんですか?」って顔で、微笑み返されてしまった……。
  • この美術館では館内に入る際、鞄を預けるのだが、壁一面の無料のロッカーが総て、番号ではなくて現代アートの流派の名称で、例えば「アンディ・ウォーホル」だの「フォービズム」だのと云った呼称なのだ。もちろん私は「ポスト・モダニズム」で!と思ったら、そのときは使用中だったので「ハイパー・リアリズム」にした。
  • 美術館を出て、「佳傳牛肉麺」と云う小さな店にぷらっと入って、牛肉麺を食べる。美味。料理の名前をずらりと並べた伝票を呉れるので、欲しいメニュウにボールペンでチェックを入れて、それを店員さんに渡すだけなので、大変楽だった。
  • 店を出たら、でかい黒と黄土色のつやつやした毛並みのよいラブラドールリトリバーがウロウロしていた。さっき黒いほうは何の店だか判らない掘っ建て小屋みたいな店で、主人の足置きになっていたはずで、この街の野良犬なのか。
  • ちいさな露天の店で、マンゴーミルクをようやく飲む。甘い!旨い! カウンタの上に、当店の牛乳は安全ですと手書きの貼紙がしてあった。すぐ近くの《三越》の最上階の本屋を冷やかしているともう六時前で、そう云えば六時半からさっきの映画館「光點電影」で台湾の新人監督の短篇を上演するとあったので、再び戻ってチケットを買う*4。一本めの『天黒』はドキュメンタリ・タッチで、誰に話しているのかと思ったら途中から出てくるヒロインにじぶんのこれまでを語っているシーンだったのが途中で判るところがかなりよかったが、思いつきのように寄ったり揺れたりするカメラが少しうるさい。少し眠る。二本目の『夏午』も少し眠る。ブラック&ホワイトのキツめの画面で、こういう情景が撮りたかったと云うだけで、しかしそれを支えるだけの強さが殆どない。だが、三本めの郭承衢の『闔家觀賞』は、ぐたぐた説明せず、いきなり冒頭から映画が動きはじめるのがいい。この映画がいちばん映画館のなかでも受けていた。どっかんどっかん笑いが起きるのだが、台湾の言葉も英語の字幕を追いかけるのもままならない私には判らない箇所もちらほらあったのは残念。しかし、ラストも鮮烈だった。ヒロインの桂綸鎂も可愛い。最後のそれがかなりいい映画だったので、それなりに満足して映画館を出ると猛烈な雨。
  • 隣の本屋に逃げ込み、再びパラパラと立ち読みするが、さっき存分に立ち読みした本屋で時間を潰すのも難しく、えいやと雨のなかに飛び出し、「セブンイレブン」でビニール傘ではなく、ざぶざぶ降るなかを歩いて帰るのだからと七百円程度の普通の傘を買い、統一の「木瓜牛乳」(パパイアミルク)を買って店の外で飲んでいると、雨が小降りになり、やがて、やんでしまう。中山站に続く地下街に下りると、地下街の両側がずっと本屋になっているところがあり、ぶらぶらと渉猟して二冊を購入。台北まできて、日本にいるときとまったく同じことをしているじぶんが哀しいような気もしつつ、やはり、よい本が買えて嬉しいのだ。本を買い、カウンターを離れようとすると店員の女の子(けっこう可愛い)が少し待てと云う。おおっ、何か!?と思ったら、ポイントカードを作ってくれた。感謝して受け取る。
  • 風呂に入ってから、買ってきた本をパラパラと眺め、明日は「貢寮」に行こうと決める。眠ろうとすると、再び豪雨。