『ソーシャル・ネットワーク』をみる。

  • 朝は「しま」に起こされて、月末の日雇い仕事の説明を受けに、昼から三宮に出る。一時間半ほどで終わり、そのまま梅田に出て、古本屋を覗く。
  • 三宮に戻り、柚子と待ち合わせて、モスバーガーで晩御飯をとる。ダイエーの上のジュンク堂で時間を潰し、ミント神戸のレイトショウで、デイヴィッド・フィンチャーの新作『ソーシャル・ネットワーク』をみる。
  • 前作の『ベンジャミン・バトン』でフィンチャーは、セオドア・ローズヴェルトから小ブッシュまで、フロンティアを追い求めて彷徨うアメリカのオブセッションとその顛末を描いた*1。『ソーシャル・ネットワーク』は、その続きである。現在のアメリカ人の少なくない数によって営まれているコミュニケーションの基盤であるFacebookが、どういう人物たちによって生み出されたのかを描くことを通して、フィンチャーは、「アメリカ=映画」のスタディを続けているのだと思う。
  • すごく単純化して云うなら、この映画は、デイヴィッド・フィンチャーによる『市民ケーン』だろう。ナラティヴの構成はきわめて巧みで、複雑化と圧縮の具合が絶妙だった。若い役者たちの芝居も良い。
  • 音楽もよかったが、ジェフ・クローネンウェスの撮影が非常に美しい。レガッタの場面が何度かあるのだが、それが実に素晴らしくて、これだけでも映画館でみる価値がある。それらは、まだ映画なるものが若くて、表現の模索が意欲的に行われていた1920年代頃の実験映画のようなショットで構成されている。フィルムの快楽と云う点からみるなら、それらは、この映画のなかで随一である。
  • そして、これがこの映画の「薔薇の蕾」だったのかと、思わず苦笑してしまう瞬間が、やがてやってくるのだが、母親も父親もいない「孤児」として描かれる、純粋無垢なベイビィとしてのマーク君*2が作りだし、みずからもそのなかで、それをおのれ自身としつつ生きているFacebookと名づけられた「フロンティア」に、必ず巣食うだろうキツい寂しさが、とても説得力のあるものとして描かれる。無論、それは映像の力だけではなく、この瞬間にも「向こう」では何かが更新されているのではないかとクリックし続ける、小さくて硬い、カチリ、カチリと云う音が映像とマリアージュされていることも大きい。そして、ビートルズの《Baby you're a rich man》が大きな音で流れはじめる*3
  • 優れたアーキテクチャとは空気のようなものではなく、それを書いたものの人間観がよく表現されているものを云うのだと、或るプログラマが語るのを聞いたことがある。そうであるなら、人間とその社会なるものを極限まで切り詰める(皆が知りたいことは畢竟あの娘に彼氏がいるかどうかだけだ!)と同時に、皆ではなく「この私」が、不特定多数から承認され得ること(本当に承認されるかどうかではなく、その可能性)も担保されているというふうに作られたFacebook的なものが、私たちを慰撫するのは、私たちの生がそのような寂しいなりをしているからということになる。
  • 繋がりながら引きこもっていたいのが、今の私たちのかなりの部分で共有される気分なのであるとするなら、この映画はそれをきわめてきれいにすくい取り、造型している。(しかし、だからこそ私は、これをデイヴィッド・フィンチャーの最高傑作であるとは思わない。システムを食い破る「世界」が、底なしの恐怖としてではあるが、最後にポカリとフィルムに映ってしまった『ゾディアック』のほうを、やはり選びたい。けっきょく私は、切り詰められることから常に逃れてしまう残余(否定の力と或いは呼ぶべきか)を抱え込んでしまう「人間」のほうに、賭けたいのだと思う。)
  • だから、この映画が本当に「今世紀を代表する最初の一本」なのだとしたら、こんなチャイルディッシュな世紀は、かなり気持ちわるい、ごめんだ、と思ってしまうのである。
  • ところで、エリカ役の女優の名前はルーニー・マーラと云うそうで、自然と、マーラ・シンガーと云う名前を思いだしたのだった。
  • 寒風に吹かれて、さむいさむいと呟きながら、柚子と家に帰る。

*1:http://d.hatena.ne.jp/ama2k46/20090211 『ソーシャル・ネットワーク』の冒頭、マーク君とエリカ嬢の会話のなかでも、セオドア・ローズヴェルトの名前が出てくるが、たぶんわざとやっているのだと思う。

*2:南波克行氏の評 http://green.ap.teacup.com/nanbaincidents/1029.html で、マーク君はトイレで一発ヤらなかったのではないかと指摘されているが、これはそのとおりであると思う。「童貞」映画としての『ソーシャル・ネットワーク』。

*3:http://beatlesbeatles.blog39.fc2.com/blog-entry-206.html