ずいぶん寒い。

  • 夕方、実家へ。行きの電車のなかで『君に届け』の第13巻を読む。少しずつ少しずつ(時には一挙に)他人を知ってゆくことの喜びが、本質的に附随する不安や困難も含めて、ひたすら丁寧に描かれているだけなのだけれど、それがいいのである。実家では、TVの前で暖房にあたっている父と、祖母がいて、ちょっと話をする。すぐ近くの弟の下宿に寄って、また新しい漫画を借りて、そのままアルバイトへ出る。
  • 東京の副知事殿が、このたびの地震三島由紀夫の呪詛した日常性を終わせて新しい時代精神が胚胎するとか書いているけれど、三島をまるで読めていないこと、さらに、彼が如何に浮ッついた日常を生きているのかがよく判る。
  • 三島由紀夫は、決して終わりなどない戦後の日常のなかでどう生きてゆくかを模索し続けたのであり、地震(それがどれだけの規模のものであろうと、断じて、地震とはただの災害であり、例えばそれを戦争のメタファーで語ることがどれだけズレているか。それは、鼠と、鼠のかたちをしたブリキの玩具を混同するようなものである)がきて人びとの暮らしを断絶させたくらいで、われわれの日常なるものが終わるなんて甘っちょろいことは決して考えていなかった。「ああいう連中に対して文化を守るとは、自分の自尊心を守ること以外にない」とは、「東大を動物園にしろ」のなかで三島が全共闘の学生たちの振る舞いを指して云ったものだが、これはちょうど、この浮かれ者の副知事殿の学生時代にあたる。
  • だいたい、三島由紀夫の作品中で『仮面の告白』や『金閣寺』を最も重要視するひとを、私は信じない。そんなものより、よっぽど『獣の戯れ』のほうが大事である。
  • 新聞屋のバイクの音がしてから、ニューヨークにいるM女史と、Skypeで明け方まで話をする。寒くなってきたのだろう、途中で「しま」がやってきて、膝の上で丸くなる。
  • そろそろ柚子が起きる頃、眠る前に、蒲団の中で、弟から借りた『坂道のアポロン』の第7巻を読む。