『サンローラン』をみる。

  • ベルトラン・ボネロの『サンローラン』をDVDでみる。画面に今が何年かを伝える数字がばーんと出るタイミングとか書体の選び方から、いきなり絶妙で、すごくじぶん好みの映画だった。だらだらと長いのが、とてもいい。しかしそのだらだらした画面のなかにはみっちりと、薄っぺらいが真摯に選ばれたであろうものたちがつめこまれているので、映画そのものが、だらけてしまうことはない。サンローランの生活がぐずぐずに崩れてゆくと、映画の結構がそれにしたがって、ほどけてゆくのもよい。
  • ギャスパー・ウリエルの演じるサンローランがとても冷徹にきれいに撮られているので、晩年のサンローランもこのまま老けメイクで彼が演るのかと思っていたら、双眸の鋭い、しかし妙に手の動きが優雅な、放蕩で身を持ち崩したような老人が演じ始め、誰だか判らないのだけれど、とてもぞわぞわする。映画が終わってから、それがヘルムート・バーガーだと判って、そうか、これはバーガー翁のドキュメントであり、ヴィスコンティへの応答でもあったのかと手を叩く。『地獄に堕ちた勇者ども』をTVで眺めながら涙の筋を光らせた老人の頬に、瞬間ぐっとアップでにじり寄った直情的なキャメラは、その反射神経が素敵だと思ったら、『ユキとニナ』のジョゼ・デエーだった。ウリエルやバーガーだけでなく、ルイ・ガレルとかエイメリン・バラデとか、出てくる俳優たちが皆とてもよかった。ドミニク・サンダまで出ている。こういうみっちりとだらだらした映画ばかりみることができたら、ほんとうに幸せだと思う。