• 夜遅く眠ったのでだらだらと起きて、昼前からシネ・リーブル神戸でヴィム・ヴェンダースの『都会のアリス』を見る。映画館で見るのはたぶん初めてだと思う。「写真だったら別の人に頼むわ」と言われる作家に哀れを覚えるが、アメリカだったら写真が撮れまくったのにヨーロッパ(西ドイツ)に帰ると全然撮れなくなる映画だ。ニューカラー写真に傾倒しまくったヴェンダースだが、アメリカだったらニューカラーの魅力を存分に充溢させた写真を撮れるのに、ドイツではアメリカのニューカラー写真を撮ることはできないという或る意味当たり前の壁を前に試行錯誤したのが、この構図は決まりまくっているがざらついた粒子の黒白映画を撮るということだったのではないか。ロビー・ミューラーの撮影は最高である。映画前半の、アメリカを放浪している間のぶつぶつした編集の繋ぎがとても好き。
  • 『さすらい』まで時間が少しあったので、商店街の中にできていたブルースターバーガーで昼飯を食う。ダブルチーズバーガーを食べる。映画館に戻り『さすらい』を見る。途中からどれぐらい時間が経ったのか判らなくなってくるがもう終電ぐらいまで続いてくれたらいいと思う。映画が終わって場内が明るくなると、観客は私を含めおっさんばかりで笑う。
  • 西ドイツの今(1975年)を、中年に足を踏み入れた戦後生まれの男ふたりの惑いの旅模様と、映画館という文化の終焉と共に描いていて、やはり撮影はロビー・ミューラー。『さすらい』もまた、ニューカラー写真のアメリカに伍しながら、ニューカラー写真では撮れない西ドイツをどう撮るかを深く思考しているが、今回は『都会のアリス』のような粒子の荒れではなく、とてもきめ細やかな美しい35ミリの黒白で撮ることを選択している。初期ヴェンダースはこんなにも鬱っぽい作家だったかと認識を改める。
  • マリ=ジョゼ・モンザンの『イメージは殺すことができるか』を買って帰路。ピーター・ボグダノヴィッチが亡くなったそうだ。