• 洗濯機を回して、昼から出かけてIMPホール(学生の時に女の子と高橋幸宏のライヴを見た)でペーター・ハントケの《カスパー》を見る。演出はウィル・タケット。声がよくて身体がよく動く訓練された役者たちが叩き込まれた言葉をてきぱきと吐き出す。名台詞はない。叙情はない。アクションだけに切り詰められた演劇に耐久する痛苦。隣の観客からは思わず大きな呻き声が洩れた。手に持っているオペラグラスが滑り落ちて床にぶつかる音があちこちで起きた。雁字搦めにされて悶える演劇の、その痙攣ぶりにときどき私の中に笑いが込み上げてくるが、少しでも苦痛を和らげようとするごまかしかもしれない。しかし、何という快楽。終わるともう一度すぐに頭から見せてくれと叫びたくなった。ハントケの小説を読み終えた時にも、同じことを思ったのを、今こうやって書きながら、ようやく思い出した。いい芝居を見た。《マクベス》の魔女のような三人のプロンプターのひとりを演じる、首藤康之の顔とスーツ姿がとても好みだった。
  • パンフを買うと《カスパー》を新訳した池田信雄のエッセイが載っていて、以前の龍田八百の訳は「抜けが多いのと、創作が入り込んでいる個所が少なからず見つかった」とある。「龍田八百さんについては調べてみたのだが、劇書房はなくなっていて消息はつかめなかった」そうだ。誰の変名だったのだろう。
  • 京橋から太陽を背にして写真を撮りながら歩く。放出の駅前まで出て、電車に乗って帰る。隣町の駅で降りて桜餅をふたつ買って、駅前のスーパーで五枚切りの食パンを買う。夕食のあと、柚子と桜餅を食べる。