- 本屋を出たら夫婦のように見える中年の男女が前を歩いていて、女の方が男に「一回や二回のことで言うてるんと違うねん!五回ぐらいあるから言うてんねん!」と怒っていた。
- 帰宅して風呂に入る。マーティン・エイミスの『関心領域』を読み終える。翻訳がこなれているせいかもしれないが、絶滅収容所の医師を取り上げた『時の矢』よりもさらに小説の作り込みの模索が深まっていると感じた。プリーモ・レーヴィもツェランも、そしてゼーバルトも既に自分の前にいる後ろで、しかし作家としてどう書くかを考え抜いた結果としての、ポストモダン小説の面目躍如だと思う。そしてマーティン・エイミスは批評がとても巧い。ふと気になって調べたら彼は1949年生で、高橋源一郎が1951年生だった。小説というジャンル以外なら、オペラであればこの筋のまま移し替えることができるかもしれない。グレイザーの同名映画を生んだというだけでも今後も残るだろうが、最後の写真の使い方を含め、とてもいい小説だった。
- たとえそれが編集者の悪意の発露だとしても、自著の帯に「稀代の名文家」と入れられて恬淡としていられる御仁が名文家なわけがないじゃないかと思う。恥のない文はすぐに腐る。
- 柚子がざる蕎麦と天婦羅を作ってくれる。美味。
- ホン・サンスを少し見ようとする。