• 晴れている。洗濯機を回す。田中登の『実録阿部定』を見る。真暗な画面に宮下順子のナレーションで始まり、新聞紙に包んだ牛刀で終わる。定を演じる宮下順子がどのショットでもとてもいじらしく、上野で彷徨している眼鏡姿もいい。江角英明の吉蔵も実にそれらしい。実際の「満左喜」の狭さはこうだっただろうとか、便所の手洗の蓋を落とすところも再現していたり、実際の事件へのレスペクトがむんむんしている。しかし同時に、38歳の撮った映画だなという気もする。竹中労が『日本映画縦断』で大島渚の『愛のコリーダ』について「おそらく三十代の彼にこの映画は撮れなかったはずだ」と書いているのは、そのとおりだと思う。原稿の続きを書いている。国会図書館のデジタルコレクションを検索していて、また新しい発見があったので追記する。引越の準備で段ボール箱に図録を詰めている。まるで片付いている気がしない。晩飯のあと、神代辰巳の『四畳半襖の裏張り』を見る。宮下順子が皇居のまわりをぐるぐる回る『実録阿部定』に対してこの映画は総てが宮下順子のまわりを回っている。絵沢萠子に触れられて芹明香の震える背中の大写しは、絵沢が蝿取り棒で捕る蝿の羽根の震えであるだろう。宮下順子絵沢萠子芹明香の震えを媒介に繋がった!と思った次の瞬間、限界まで大きくなったシャボン玉が破裂して果てるように、ぱちんと映画も終わる。全くここで終ると思っていなかったので、やられた。