- 図書館で借りてきたユン・ゴウンの『夜間旅行者』を読む。表紙がジグマー・ポルケで、小説の中にはルイーズ・ブルジョワの《ママン》が出てくる。久しぶりに小説を読むと、批評文とか論文を読んでいるときとは全然違う頭の動き方をしているのが判って面白い。「世界をぷつりと切って断層をつくるのが災害だとしたら、カメラはその断層を実感させる道具だった。カメラがカシャリ、となった瞬間、そこに写っているのはもはや人物でも風景でもない。時間の空白だ。時には、いま生きている時間よりも短い空白のほうが、わたしたちの人生に大きな影響を行使することもある。ヨナは思った。もしかするとすべての旅は、始まる前にスタートラインを越えているのではないかと。旅とは、すでに始まっている歩みをたどるだけのもの」。ラストでシニックな予定調和が総て覆される。