渋く、渋過ぎる

  • 朝、先日注文した『福田恆存評論集』が届く。
  • 柚子とのんびり過ごすつもりだったが、独り昼過ぎから出掛ける。関西では滅多にない滝本誠氏のトーク&サイン会が催されると知っては出掛けずにはおられず、松屋町の「LOW」へ*1
  • 滝本氏の到着直後に滑り込み、しかも間近の席に座ることができ、我が人生ハルマゲドン級の影響を受けた批評家殿堂入りザ・ベストワンのタキヤン師の謦咳に触れる。
  • ナマタキヤンは顔文一致のみならず声文一致*2のダンディで、だだ惚れ。
  • 壊れた世界を壊れた人間が彷徨うのがノワールであり、途中までとても素晴らしかったのだが、最後まで決定的に壊れないバトーが壊れた世界を彷徨うと云う構えはハードボイルドのそれであってノワールではなかったのが残念だったと語られた押井守の『イノセンス』論、『渋く、薄汚れ』に続く最新作の予定や予告されている『アシュカン派の美術』や『マルホランド・ドライブ』論の構想、ファビュラス・バーカー・ボーイズの裏話、来日したデイヴィッド・リンチを接待した東京の夜、上京直後のアパートのものすごい間取り、師いわく「今も暗いものに惹かれる」その源のひとつであるウィーン世紀末の美術や文学、ムージル*3の『特性のない男』の読み方やこれまででいちばん嬉しかった書評の仕事、『ペンギンの憂鬱』、大久保訳と若島訳のナボコフ『ロリータ』の比較、毎日の生活と『のだめカンタービレ』と武満徹アナーキズムジョニー・トー、原稿を書くスピードのことなどなど、実に丁寧にお答えいただき、めくるめくタキヤン曼陀羅にすっかり溺れさせていただく。
  • 「LOW」*4の方の御好意で、さらにその後の中崎町のイタリア料理屋での打ち上げまで参加させていただく。滝本氏には、持参した御著書に丹念なサインを頂戴する。感無量。
  • 終電ぎりぎりまで御相伴させていただき、帰宅。
  • 「LOW」の方々による当日の模様*5 *6

*1:http://cafe-low.sakura.ne.jp/

*2:大学生活の少なくとも2年間を捧げたハイデガーの声が、ウィリアム・バロウズのそれのような渋く薄汚れからは程遠く、か細くてキンキンしたものだったのを聞いたときの、ばららんばらんとした虚脱感は忘れられない。例えば、坂本龍一の『LIFE』のなかでサンプリングされた、「火だ、火だ」と云うハイデガーの声が聞くことができる。

*3:もちろんタキヤン師に馴染みの表記はムシルだが。

*4:店内の壁のひとつを占める本棚が壮観。海野弘の著作が殆ど総て揃っていて、他にもナボコフの翻訳などが並んでいる。売り物ではないと聞き、がっかりしたほど。

*5:http://whitefall.exblog.jp/m2007-01-01#4568764

*6:http://corbusier.exblog.jp/6341389