履歴書。

  • 履歴書を書くのが面倒だ。義兄がわざわざ義姉を通して受けてみたらと連絡してきたのを放っておくわけにもゆかず、しかし提出用の書類を作るのを延ばし延ばしにしていたのだが、愈々きょうが締切日で、柚子からも合否は問わないからせめて試験だけは受けて頂戴よ、と、きのう釘を刺されたので、PCからプリントアウトした書類を、客間のテーブルに拡げて、ボールペンで志望動機なんかを埋めてゆく。「しま」がよじ登ってきて邪魔をする。
  • 昼過ぎにようやく仕上げて、書類を封筒に詰めて、背広を着て家を出る。証明写真を撮らねばならないのと、このあとアルバイトが入っているからだ。「しま」を家の中に独りにして出るのは初めてなので、なかなか淋しがりの彼のことだから、びぃびぃ泣いているだろうか、どうしているだろうかとずっと気にかけながら自転車を漕ぐ。
  • 書類を提出して、係員から試験の実施要項などの簡単な説明を受ける。集団面接があるそうだ。もうそれを知っただけで、受かる気がしない。
  • アルバイトを終えて、家に戻る。万が一飛び出してきてはいけないので、そろそろと扉を開ける。土間からもう「しま」の名を呼ぶ。階段――狭い家なので、壁沿いに作られた階段は、二階に届くまでにいちど直角に折れ曲がる――を見上げると、その折れる直前の段から、私の声に応えて、ぴょこっと仔猫の耳が飛び出した。
  • 柚子が帰宅して夕食を食べる。洗い物をしていると、野菜スライサーの刃で指先を切る。大変痛くて喚く。
  • ちくま文庫から出ている石川淳の三巻本の傑作選をあちこち読んでいる。やっぱり面白くて、全集は無理でも選集なら……と考え始めている。「佳人」を読み始める。