• 昼過ぎまでまったく起きることなくひたすら眠っていた。
  • 映画館は、映画が始まる前にすぅーっと暗くなり、真っ暗闇に浸される。次に、前方を占める視界が矩形に明るくなり、そのときには、私は目玉(と耳)だけになって、その他の全身を闇のなかに総て残してくる。または、すっかり塗りつぶして隠してしまっている。この感覚を得られるのは私にとっては映画館だけで、だから私は映画館で映画をみるのがとても好きなのである。
  • 最近よく映画館の素晴らしさとして喧伝される、他人とひとつの空間を共有しておなじものをみることは、だから私にとってあまり重要ではない。目玉だけになっている私の邪魔をしないで、おなじように押し黙って、薄暗闇に潜り込んでくれているひとたちであることを願うだけである。
  • 夜、雷が落ちる。たぶんずいぶん近く。雨だなと思い、窓越しにベランダの向こうを覗くと、雪が降っており、庭も隣家の屋根も道路にも、すっかり積もって真白になっている。柚子に知らせる。ふたりでベランダに出る。「しま」もベランダに続く扉のところまでやってきたが、空気が冷たすぎたらしく、ひとつ文句を啼いて、そのまま帰っていった。