『ワルボロ』を観る。

  • 真夜中、気になっていた隅田靖の『ワルボロ』*1をようやくDVDで観る。これぞ三角マークに波どっばーんの東映映画。深作欣二中島貞夫の匂いがぷんぷんする。こう云う映画こそ青少年が見るべきで、文科省特選にすべき。『恋空』では吃驚するほど残念だった新垣結衣も紅一点、凜と立つヒロインを演じていて大変素晴らしい!
  • 日本のアニメーションが作り得た、最良の青春映画の一本である山賀博之の『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は、主人公の朴訥とした独白から始まるが、それは、「いいことなのか、それとも、悪いことなのか、判らない」だった。
  • 「いいこと」と「悪いこと」を判断し決定するためには、じぶんが否応なく置かれている情況の外に出て、適切な距離からそれを眺めなければいけない。しかし、青春が最も苦手とするのは、まさにこれなのだ。いま進行しつつある人生から仮想的に、ちょっと離れて俯瞰するための、外部に立つ視座を設定することができず、右往左往するのが、そもそも青春だからだ。思春期の頃にミステリ好きが多いのは、そんなことも関係しているのかも知れない。ミステリの読み手や登場人物たちは、犯人や動機が判らず、事件の外部に立つことができず混乱し困惑し不安に陥る。そんななか、事件の外部に立ち、最もよく見渡せる場所から縺れた情況を鮮やかに解決してみせる名探偵とは、だから青春がどれだけ足掻いてもなかなかそうはなれない、大人のことなのかも知れない。
  • さて、この『ワルボロ』のなかでは、たった二箇所に出てくるだけだが、ピエール瀧の演じるおっかない仕立屋*2 の存在は、そう云うわけで、とても重要なのだ。
  • 仕立屋は最初、不良に入門した主人公の変形学ランの裏地に、注文通りに虎の刺繍を入れることを拒む。ただの半端なクソガキに「虎」は似合わないから、と。しかしのちに、彼は、出来合いの「虎」ではなく、「一匹狼」の文字と、月を背に、咆哮する直前と云った表情の狼の正面からの顔を刺繍してやる。小言が煩い母親(戸田恵子、平手打ちのスピードが容赦なく速くて見事!)でも、親戚の叔父さん(仲村トオル!)でもない、外部にいる大人からの承認。そして、一匹狼になった主人公はようやく、何となく群れているのではなく、きっぱりとこいつらこそが俺の仲間なんだと決めた奴らと合流する。ラストの咆哮するショットは、それらの繋がりの結尾として、とても見事。
  • しかし、これはやっぱり映画館で観るべき映画だったなあと些か痛恨。直感に従って映画館に走るべきだった……。
  • 隅田靖はこれが監督第一作。すごく期待できるひとだと思う。

*1:http://www.waruboro.jp/

*2:仕事場の壁に信長のカレンダーが貼ってあるのが可笑しい。 http://jp.youtube.com/watch?v=9Dlue32c1Eg