- アレクサンドル・ソクーロフの『静かなる一頁』*1を、借りてきたヴィデオで観る。ドストエフスキーの『罪と罰』を素材に撮られた70分ほどの短い映画。
- 水の流れている音がずっと小さく聴こえている廃墟のように撮られたモノクロームと見紛うほどに色をこそぎ落とされたペテルブルクの街並み。画面に色が溢れるのは、皮肉なことに、廃墟を描いた泰西名画を大写しにする瞬間だけだ。
- ソーニャと思しき、痩せていて色の白い少女が、ラスコーリニコフと思しき青年のアパートを初めて訪れるシーンの茫漠たる(幽霊のような?)美しさ!
- 老婆殺しを告白したラスコーリニコフにソーニャが、神に祈り、大地に接吻しなさいと、かき口説くのを見ながら、ペテルブルクは18世紀に寒い泥濘の上にまったく人工的に作られた都市だったことを、ふと、思い出す。もちろんそれは以前に、飯島洋一の労作『建築と破壊』を読んだからで、本棚からそれを取り出してぱらぱらと捲ると、やはり、本の中にはこんな一節があった。
壮麗な都市は、それを一皮剥けば、鮮血に溢れるのである。あるいはそこからは、人骨がただちに露出してくる。(……)そもそもサンクト・ペテルブルクとは、ピョートルによってそんなふうに作られた町なのだった。(……)この都市にかかわる工事に当たり、「ツァーリは、好んで彼らにまじって斧をふる」ったという。(……)ピョートルは銃兵隊員を処刑する際にも、「自ら手斧をもって死刑執行にあたる、というおぞましい光景がみられた」(……)。
- 来月、東京で上映されるジャック・リヴェットの『アウト・ワン』は日本語字幕なし。12時間40分を字幕なしは、さすがに……。仏語(だけじゃないが)をキチンと勉強しなかったじぶんを猛烈に責めたい。
- 雨だったので、終日、拙宅で逼塞している。柚子が苺クリームのケーキを買ってきたので、お茶を炒れて、食卓で並んで食べる。
- MT君から池田亮司の新作『test pattern』を聴かせてもらう。これまで以上に、ぐっと審美的だなぁと思いながら聴いていたが、最後の曲が物凄い。まるで戦争みたいな、混沌みたいな、耳元にスピーカーがギチギチと押し寄せてくるような音楽。最後までひと通り聴いてから、再び初めから聴きなおすと、それぞれの曲の印象がガラリと変わっていて、驚く。
- 昨日、蓮華嬢が男児を無事出産。慶賀。彼女が携帯に送ってくれた写真を見ると、どうやら蓮華嬢の家系が色濃い容貌。
*1:淀川長治による評。もう誰もこのひとのように語ることはできない。何と云う素晴らしい文だろう。 http://www.sankei.co.jp/enak/yodogawa/94/94shizukanaru.html