眠りを眠る。

  • さすがにきのうは疲れはてて、午後までぐぅぐぅ眠る。目が醒めると腕のなかで「しま」が丸くなって眠っていて、私が目を開けると彼女も目を開けて、こちらをじっとみる。
  • 大変冷たい雨が降るなかを駅まで歩き、アルバイトに。
  • 帰宅して、柚子の作ってくれた豆と野菜のカレーを食べる。少し辛くしすぎたみたいで、柚子の眉間に皺が寄っていた。
  • きのうやまもも君と話していたとき、「中野重治の詩はすごくいいんだ」と云うた手前、引いておく。例えば、「夜明け前のさよなら」と云う詩。

僕らは仕事をせねばならぬ
そのために相談をせねばならぬ
しかるに僕らが相談をすると
おまわりが来て眼や鼻をたたく
そこで僕らは二階をかえた
路地や抜け裏を考慮して


ここに六人の青年が眠つている
下にはひと組の夫婦と一人の赤ん坊が眠つている
僕は六人の青年の経歴を知らぬ
彼らが僕と仲間であることだけを知つている
僕は下の夫婦の名まえを知らぬ
ただ彼らが二階を喜んで貸してくれたことだけを知つている


夜明けは間もない
僕らはまた引つ越すだろう
かばんをかかえて
僕らは綿密な打合せをするだろう
着々と仕事を運ぶだろう
あすの夜僕らは別の貸ぶとんに眠るだろう


夜明けは間もない
この四畳半よ
コードに吊るされたおしめよ
すすけた裸の電球よ
セルロイドのおもちやよ
貸ぶとんよ
蚤よ
僕らは君らにさよならをいう
花を咲かせるために
僕らの花
下の夫婦の花
下の赤ん坊の花
それらの花を一時にはげしく咲かせるために