- 大江の話すあの独特の声が脳裏で再生される。たった一度だけ阪急ファイブの上で開催された講演会に参加した。出待ちをして当時のフェイヴァリットだった『「雨の木」を聴く女たち』の文庫本と、『懐かしい年への手紙』の単行本にサインをしてもらって、たまたま同じエレヴェータで降りた。エレヴェータの壁の前で大江は、小田実と並んで喋りながら、さっきまでかけていた丸眼鏡を取って、スクエアのフレームの眼鏡にかえたのを覚えている。『燃えあがる緑の木』の一巻目が発表されるすぐ前の頃だったと思う。
- 白倉由美好きの女友達から「大江って面白いの?」って訊かれたのと、『BLUE』と『フレイクス』の二冊の短編集で脳天に一撃を食らわされたころに読んだブックガイドで山本直樹が『みずから我が涙をぬぐいたまう日』を挙げていたのが、大江を読まなきゃと思ったきっかけだったはずだ。『懐かしい年への手紙』から読み始めて、途中で、これは初期からいろいろ読んでから読まなきゃだめだと思って、大江ばかり読みまくったあと、また頭から読んで、めちゃくちゃ感動した。