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- ずっと起きないで眠っていると、東京駅のバス停に着く。雨。駅の中の本屋でぶらぶらしているうちに、いい時間になったので、地下鉄で乃木坂まで移動して、国立新美術館で「ピエール・ボナール」展をみる。セザンヌもキュビスムもマティスも経験して、それでもじぶんの絵を描くということ。特に、裸婦と室内画が選んで飾られたふたつの展示室では、ひたすら感嘆する。やはりボナールは私にとって、特別な画家のひとりである。無理を云って、見にきてよかった。
- 六本木トンネルを潜って写真を撮りながらぶらぶら歩いてマクドナルドで、書評の原稿の手直しをしてメールで送る。
- そのあと東銀座まで出る。歌舞伎座とマガジンハウスの前に何台も消防車が停まっているのを横目に、法律事務所のなかのIG Photo Galleryで、金村修の「Suck Social Stomach」展をみる。
- わざわざ地下鉄で銀座まで乗る。ギャラリー小柳でミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダースの二人展をみる。マンダース、やはり良い。
- もう四時を過ぎていて、足がくたびれたので、東京駅まで戻る。途中、名古屋で降りて、SKEの「お渡し会」に参加してみようかと思うが、「お渡し会」がどういう仕組みかよく判っていないので諦めてそのまま帰宅する。
- FNS歌謡祭で、須田亜香里がメンバーに入っている選抜ユニットのライヴの生放送を、裏番組の『獣になれない私たち』を録画しているので、とても真剣に、画面を注視しながら見つめる。こういうところに須田が選ばれているのがとても嬉しい。
- それが終わると、疲れて、蒲団のなかに潜り込む。
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- 朝起きだして、昨日書いたものを読む。このままだと幾らでも細部が膨れて終わらなくなると判断して、書きたいことをふたつに絞る。それから冒頭を書き改めると、なんとか昨夜に書いた分が整理できて、昼過ぎには書き終える。
- 宝塚に行く。阪急に乗っていると、携帯がずっと圏外(ときどき繋がる)になる。こんな時期にぶっ壊れなくてもいいのになあと舌打ち。あとでソフトバンクのほうの問題と判る。柚子と大劇場の食堂でたこ焼きを食べるつもりだったのに食いそびれる。
- 雪組の《ファントム》をみる。花組での二度の再演版の、ちょうど中間ぐらいのテイスト。望海風斗も真彩希帆も歌が巧くて、とてもいい。しかし、クリスティーヌの登場して最初の花売りのナンバーから、もう涙が出てきて困る。エリックの従者たちのなかのひとりが、頭の後ろに黒いリボンをつけている、たぶん娘役さんのダンスがとても気持ちがよくて、出番があるたび、ずっとオペラで追いかけている。幕間でパンフを繰ったら、たぶん笙乃茅桜。すごくいい。
- 私はなぜかこのミュージカルの父と子の物語にとても弱くて、第二幕はもうほとんど嗚咽しっぱなしである。涙が止まらない。しかし泣きながら、これはどうやらじぶんは今ずいぶん弱っているらしいぞと思う。泣きに泣きまくることで、カタルシスを貪ろうとしているなと思う。こんなところで、やはり少し参っていることを実感する。お芝居が終わってからのエンディングのショウも色が鮮やかできらきらしていて、堪能する。
- 靴底に穴が開いたので、元町で柚子に靴を買ってもらう。そのあと「ムジカ」でお茶を呑んで帰宅する。少しだけ原稿を訂正して、メールで送る。朝方までラジオを聴いたり、届いた『キネマ旬報』を読んだりしている。生涯のベストテンにたぶん必ず入れるアンゲロプロスの大傑作『アレクサンダー大王』がじぶんのを含め三票。そのうちのひとりは佐藤忠男だった。佐藤忠男とおなじテーブルに坐る日がくるなんて。
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- 朝から夜まで仕事に出て、帰ってきてから部屋で、JLGの『全評論・全発言II』に載っている、ゾエトロープで撮るはずだった『ザ・ストーリー』の「抜粋されたシナリオ」を読みながら、これが撮られなかったことをとても残念だと思う。「母と娘が部屋のなかを行ったり来たりする。どっちも裸である。あるいはただTシャツを着ているだけである。二人は互いに髪を乾かしあう。ダイアナが鏡を見る。カメラは二人を背後からとらえる。ダイアナが言う。男どもにあまり尻をほられたくなければ〔してやられなくなければ〕、尻をしっかり閉じる〔こわがる〕すべを心得ておかねばならない、と。そういうことね、とベティー。そういうことなの、とダイアナ。二人は笑い興じる。」
- 柚子と晩御飯を食べて、原稿を書き続ける。そのうち、幾らでも書けそうになってきて、文字数がどんどん増えてきて、しかし終わりが見えなくなってきて、たいへん焦る。頭が回らなくなり、蒲団に逃げ込む。
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- 何か書いているとき、沈黙に耐えられなくなるときがある。書くべき言葉の声が聴こえてこないことによる焦りが、沈黙を増進させる。それで、すぐYouTubeでAKBのPVとかナイツの漫才とか圓生とかアメリー・レンズのDJとか聴き始めてしまう。逃げているのだ。いちおう机の前から逃げないようにはしているけれど。沈黙によく耐えて、声が聴こえてくるのを待たなければ。これを聴取できるのは私だけなのに。……と、原稿じゃなく日記を書いてごまかしている。SKEの新曲の《Stand by you》を聴きながら。
- 原稿の訂正をひとつ返す。「肩書きを」と頼まれたら、「批評家」と書くようにしているのは、もちろん佐々木敦からの影響大であるが、だれでもどこでもすぐに、平気で「批評家になんかなるな」って云うから。こんなにあからさまに軽蔑されている職業って、最近なかなかないんじゃないか。だから「批評家」と名乗るようにしている。
- 柚子が仕事から帰宅して夕食を一緒にとる。夕食のあとも部屋に籠って、頼まれていた書評を書いて送る。原稿用紙二枚半くらいのものなのに、呻りながらようやく終わらせた。蓮實重彦の批評の触覚性については、もう少し纏まったものを書けるかもしれない。
- 今日はJLG(88歳)と井田玲音名(20歳)の誕生日だった。