祖父の腕時計と祖母の愚痴

  • 先日、大学に入ってすぐのときから使っているスウォッチクロノグラフが壊れた。ご存知の通りスウォッチは分解修理ができない。腕時計がないと大変困るが給料日はまだ遠い。そして、ふと思い出した。ずいぶん昔に父親から貰って、放っておいた祖父の腕時計があったのを。
  • 営業に出たついでに実家に寄り、嘗て私の部屋だった現・物置を引っ掻きまわして発掘した。亡くなった祖父の、30年ほど前のセイコーのオートマティックである。さっきネットで調べたらLM(ロードマチック)と云うシリーズだとか。裏蓋に「大阪市交通局互助組合」より「定年退職記念」として贈られた由の文字が彫ってある。祖父の手首に合わせた金属ベルトは、私には些か細すぎた。
  • 居間で祖母と話をする。寧ろ、彼女の日々の暮らしのなかで鬱積した愚痴の掃除を手伝ったと云うべきか。何しろ私はお祖母ちゃん子である。まるで苦痛ではない。「そうだよねぇ」と話を聞く。
  • 実家の最寄駅に附属のショッピングセンターは、活況から見放され、閑散としている。2階の半分を占める百円ショップ(だが此処も2月で閉めるそうだ)で、腕時計の革バンドを買って交換する。えらく安っぽい見栄えになってしまった。どうぞ赦されよ、敬愛するわが祖父よ。私が生まれる前年に亡くなった祖父を、私は数葉の写真でしか知らないのだけれど。