女王陛下と王子様に謁見。

  • さすがに今朝は眠りに眠る。おっとりと正午前に柚子とふたりで階下に下りると姑から呆れられる。午後から柚子と宝塚へ。蓮華嬢と三人で宙組の公演を見物する。『ホテル・ステラマリス』と『レヴュー伝説〜モン・パリ誕生77周年を記念して〜』*1の二本立て。
  • ヴィデオで幾つか観ているが正塚晴彦の演出を舞台で実際に観るのは初めて。2階の桟敷席に座った所為もあり、装置や照明、群集の処理の際立ったうまさがよく見えて愉しい(観なかったことが悔やまれてならない月組『グランドホテル』(実況のCDは愛聴している)、または『ウエストサイドストーリー』などのブロードウェイ作品で正塚は演出補だった筈)。舞台上に常に運動が生成しているのは気持ちがいい。ラヴシーンでは他のシーンとは異なり、極くシンプルな装置のみを配し(新バイロイト様式にも通じる!?・苦笑)、官能的な空気を濃密に漂わせる。
  • ハードボイルド好みの正塚らしい男の美学(好きだからこそ身を引く、水夏希の演じるホテルの支配人。水夏希は濃いぃ役を演るほうが良いよね)と女の美学(決然と男の前から歩き去ってゆく、彩乃かなみの演じるニューヨークのお嬢様)もあり、私は大変に好感が持てた。佳作である。
  • で、このニューヨークの富豪の娘を演じた娘役、良い芝居をするなあと思っていたら、柚子や蓮華嬢から次の月組のトップ娘役に就任するのだと教えられる。ほほぅ。
  • 宙組は、プッチーニの『トゥーランドット』の翻案である『鳳凰伝』*2から観ていて、今の処それをもって屈指とすべきであると思う(かわいらしいセックスコメディだった『ジャンヌ・ダルクの恋人』*3も好きだけれど。”王子様”和央ようかは、個人的にはこのときがいちばん好ましかった)。『鳳凰伝』は何しろ、”女王陛下”花總まりが凄かった! 大きな暗い焔を全身から迸らせて、満座の劇場を飲み込み尽くしたおハナさま。アレは本当に凄かった。アレをもう一度味わいたいがために、宙組の公演には欠かさず足を運んでいる。しかし、心からの満足を得られたことは、アレ以来まだない。
  • で、提言(妄想?)。宙組は『マクベス』をやるべきではないか。おハナさまの舞台への情念を充分に受けとめることができるだけの器など、そうざらにあるわけではなく、易々と創作できるものでもあるまい。
  • ならばもう、マクベス夫人しかあるまい。実際ヴェルディのオペラでも、凄まじいアリアを聴かせるのはマクベス夫人ではないか。贅を凝らした大劇場の舞台で、沙翁がヴェルディが心血を注いで創りあげたマクベス夫人と云う最高の依代に、おハナさまの悪の華が咲き誇る!あああああああっ!観たいっ!!
  • マクベスだって、荒地の魔女と妻の唆しで王殺しの悪の道をひた走る前は、忠君純真なる騎士の鑑だったわけだ。ならば、がんらい白鳥の王子様が大変よく似合うタカコさんにも、マクベスは大変おいしい役であろう。黒澤明の『蜘蛛巣城』を参照するまでもなく、ラストは派手な見得を切って死ねるわけだし。トップにふさわしい役柄である。ギトギトなマクベス役者は他にもたくさんいるわけで、宝塚でもそれをやらなきゃならんと云うことはあるまい。タカコさんの演じるさわやかな青年マクベス、決して悪くないと思うが。
  • 恒例のオペラ翻案シリーズと云う触れ込みでも、ヴェルディのオペラ版があるわけだからOKだし。さあどうだ、『トロヴァトーレ』の次は『マクベス』だ!?
  • レヴューは、まあこんなもんかと思いながら見ていたが、ラストの大階段を用いた、羽根を寄せ合う椋鳥のような純白の塊でやられた。素直に綺麗だなあと思った。
  • 柚子と帰宅。駅で手を振って別れずに一緒の場所へ帰ると云うのは、なかなか良い。