第二の小澤!? ンなもんメじゃないぞ

  • 仕事を終えて、慌てて帰宅して、TVの前に座る。NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』を見るためである。初めて見る番組だが、何しろ大野和士が出る。しかも私が去年ブリュッセルへ飛んで観た『トリスタンとイゾルデ』の舞台裏のドキュメントだと云うのだから*1
  • 45分番組で、しかもクラヲタだけでない大勢のひとが視聴するのだから仕方がないが、欲を云えば3時間ぐらいの尺でじっくりとやってほしかった。最近はモーツァルトへ傾いているみたいだが、司会の茂木健一郎も筋金入りのワグネリアンであるわけだし。
  • 番組のなかで、大野がピアノの前でヴェルディの『椿姫』を読み解く場面が少しあり、それが実に素晴らしかったのだが、大野和士は、ワーグナーヴェルディマーラーの作品を彼なりに「解釈」しているのではない。彼が探し当て、表現しようとしているものは、それぞれの作品に於いて「それでしかありえないもの」だ。それはザ・ワンであり、複数の可能性のうちのひとつではない。
  • ベルギーでの自宅の様子が映ったが(いったいこの家には何台ピアノがあるんだ!?)、夫人の傍らで、まるでムイシュキン公爵のように呆と立ち尽くす大野の姿に感動する。音楽に触れていないとき、彼はまったき「オフ」なのだ。彼の指揮を生で見たのはわずか数回だが、そのいづれも尋常でない燃焼ぶりだったが、なるほどそれを可能とするものはこれだったのか。
  • 番組で紹介されたモネ劇場での『トリスタンとイゾルデ』の公演の際、私は桟敷席の一階に座ったので、ちょうど舞台袖のあたりから、ピットのなかの指揮者の横顔を、真横から眺めおろすことができたのだったが、そうして大野を見ていると、唇はずっと動いていた。総ての歌詞を諳んじているのだと思う。
  • 大野が通っていると紹介された、モネ劇場から程近い日本料理屋「侍」の前は私も通った。貧乏旅行だったので、看板だけを通りから見て、もちろん入らなかったけれど。
  • ああ、もういちどブリュッセルへ行きたい。とても素敵な街だったので。そして、大野和士の振るオペラを、次はベルリンで観たい。