『プレステージ』、なかなか良い

  • 最近ふと手に取った『日本の思想』を読み始め、これは紛うことない「古典」だし、丸山眞男と云うのは、これまで私が思っていた、ユルい「左翼」のカテゴライズではあまりにはみ出すものの多い、云うならばデモーニッシュな書き手だと、最近ぞくぞくしながら読んでいる。
  • 「「である」ことと「する」こと」は、学生時代に丸山が民法の講義で「時効」の制度を習ったときの話から始まる。

請求する行為によって時効を中断しない限り、たんに自分は債権者であるという位置に安住していると、ついには債権を喪失するというロジックのなかには、一民法の法理にとどまらないきわめて重大な意味がひそんでいるように思われます。

  • この言葉は、丸山眞男のテクストにも当て嵌まる。読んでみればそれはとても面白く、刺激的だ。しかし、はたして丸山眞男はこれからも、これまでのように広く読まれ得るだろうか? いきなり何の説明もなく「三・五」とか「ナルプ」とか「文戦」とか出てきても、現在の多くのひとにはさっぱり判らない事柄ではないか? それらが判れば丸山の論が判るとは云わないが、そういう細部の具体的な姿を立ち上げながら読み進められるほうが、私は読書を深く味わえると思うのだ。古典だの名著だとのんびり構えていないで、良い註釈をつけた新版を、岩波は出すべきではないだろうか? 
  • ちょっとした勘違いから、クリストファー・ノーラン監督の『プレステージ*1の試写を観ることができた。『奇術師』と云う立派な原作の邦題があるのに、『イリュージョンVS』と云う題名は如何にもひどいと思っていたが、原題に戻しただけ良しとするべきか。原作であるクリストファー・プリーストの『奇術師』も読んでいるが、この映画は実に巧く原作から美味しいところだけを抜き出していた。演出の手際も良く、美術や撮影(ウォーリー・フィスター。深い森のなかにトップハットが散乱するオープニングの映像が実に格好良い)、そして俳優たちの演技も大変愉しめた。デイヴィッド・ボウイがめちゃめちゃ美味しい役(ニコラ・テスラ!)で出ていて、スカーレット・ヨハンソンは、いつもながら無駄にエロい。
  • 茶屋町タワーレコードに寄る。キューブリックが好きな映画ベストテンに選出しているのを読んでから、そしてスコセッシの『アビエイター』を観て、ますます観たくなっていたハワード・ヒューズ監督の『地獄の天使』のDVDが七割引きで売っていたので、即購入。
  • 柚子と待ち合わせて帰宅する。