「えんじ」くん。

  • 朝方まで起きていて、昼前まで「しま」と眠る。
  • 夕方までぽつぽつと書き物や、ティーレマンの振る『トリスタンとイゾルデ』の第一幕に耳をすませたりする。『ローラ殺人事件』の附録に、ジーン・ティアニーのそれと共に収められていたヴィンセント・プライスのドキュメンタリをみる。何と云う素晴らしい人生だろう!
  • 私の部屋で遊んでいた「しま」が、積み重ねた本の山をひとつ崩したので怒ると、奴も大きな丸い目をさらに見開いて、ぐぐぅっと私を下からまっすぐ睨んだまま固まって、拗ねている。「しま」はちょうど、人間の年齢に換算すると幼稚園児くらいになるのだそうで、私と柚子は「しま」のことをたびたび、「えんじ」と呼んでいる。
  • 雨が止み、夕方から自転車でアルバイトに。
  • 帰宅後、柚子と並んで夕食をとる。
  • 真夜中、M女史から頂戴した仕事を引き続き進める。
  • 明け方、ギョーム・ドパルデューの逝去を知る。その父ジェラールよりずっといい役者だったと私は思っている。カラックスの『ポーラX』での破滅は無論、ヴァンサン・ペレーズの撮った『天使の肌』のラスト・シーンさえ、しかし、だがそれらよりもやはり寧ろ、リヴェットの『ランジェ公爵夫人』での彼の剣呑なさまを、ドスン、ドスンと云う不吉な義足の足音を、きっと時折、これからもふと、思いだすことになるだろう。