• 井上郷子の弾く近藤譲のピアノ作品集をずっと聴いている。海外盤だが日本語で、近藤譲の記したライナーノートがついている。そのなかの《視覚リズム法》から。

このような音楽書法を、私は、「偽反復」と呼んでいる。それは、単なる繰り返し(つまり「反復」)と「変奏」との中間に位置している、と言えばよいだろう。(……)文字通りの「反復」は、静止的であって、どこへも進行せずに滞留する。それに対して、「偽反復」は、ほとんど「反復」のように静止的でありながら、同時に、秘められた変化と動きを表わす。動性を秘めたこのような状態を言い表わすには、「力動的静止」という、矛盾を孕んだ言葉が適当かもしれない。この音楽での「力動的静止」の体験は、私たちの日々の暮らしに喩えることができるだろう。私たちの生活はほとんど同じ毎日の繰り返しだが、しかし、今日は決して昨日と同じではないのだから。

  • 近藤譲の音楽をめぐる思考というのは、とても深く、原理的で、だから私のような門外漢にも或る普遍性を以て(それが誤読であろうと。創造的誤読でありたいけれど)迫ってきて、大変参考になる。