はじめての握手会

  • さすがに柚子にも、これだけは如何にも恥ずかしくて云いだせないまま「ちょっと京都まで行ってきます」とだけ云って夕方から出かけて、SKE48の《不器用太陽》劇場盤握手会に参加する。ついに握手会まで来てしまった……この日のために、事前に購入しておいた劇場盤は一枚である。とにかく握手会そのものが初めてなので、まずチケット一枚だけの時間とかありがたみを知ろうと思ったのと、そもそも推しメン総ての枚数を購入できるほどの余裕は今の私にはこれっぽっちもないので、やはりイチ推しの、須田亜香里さんの第七部を購入しておいたのである。
  • 京都駅からさらに竹田まで出て、どしゃぶりの雨のなかを京都パルスプラザ大展示場まで歩く。入口のところに警備員がいて、荷物の中身を確認され、金属探知機でボディチェックも受けてから、会場へ入る。会場のなかは幾つものレーンで仕切られていて、それぞれの手前のところに顔写真入りの身分証明書(車の免許証を取って以来、私がいちばんこれを活用しているのはSKE48のイベントのような気がする……)と、握手会チケットと劇場盤の納品書をチェックしてもらう、小さな机の前に坐ったふたり組の係員がいる。
  • 私の並んだ須田さんのレーンの左右はそれぞれ柴田阿弥松井玲奈で、ちらちらと彼女たちの姿もみえる。松井玲奈の服はちょっとエキセントリックで可愛く、すごく顔が小さい。柴田阿弥は、あの大きな目をくるくるぴかぴかさせながら握手をしている。
  • 徴兵検査とはこんなだったのだろうか、とか考えたり、大嫌いだった小学校の健康診断の予防注射のことを思い出したりしながら、レーンは何度か折れ曲がりながら、徐々に、いちばん奥のパーテーションで区切られた場所へ近づいてゆく。どうしようもなく、どきどきしてくる。……
  • 須田さんは両手でぎゅっと包み込むように握手してくれるのだが、これが実に絶妙な力加減で、ふわっと握りこまれ、その柔らかい感触がずっと残る。……
  • レーンから出て、出口に向って足早に歩みゆくときの私の顔は、押し隠そうにも溢れてきて止め処ない笑みのせいで、『ダークナイト』のヒース・レジャーより怖ろしく不気味な、家族や友だちには絶対にみられたくない顔をしていたに違いないのである。
  • 原稿、だーすーのためにも(?!)絶対今回は落とさないようにしなければ……と決意して、これが握手会というイヴェントのヤバさか……だーすーワイカァァァァァァァァ!などと思いながら、やはりどしゃぶりの雨の中を竹田駅まで戻る。
  • もちろん、そのまままっすぐ帰宅する。晩御飯を食べて、柚子にようやく、握手会に行ってきたことを告げる。
  • ヴェントゥーリの『近代絵画の展開』を読んでいる。そこで紹介されているマネの言葉。「本当のことは、ただひとつしかない。あなたの見ているものを、一筆で、いっきに描きあげてしまうことだ。それを把握すればあなたのものになる。把握できなかったら、またやり直せばいい。ほかの事は一切、無意味だ。」