メロドラマの怪作『バンジージャンプする』を観る

  • 午後から独りで三宮に。古書肆をぶらぶら。
  • その後、姑と柚子と落ち合って、イ・ビョンホン主演映画(監督はキム・デスン)『バンジージャンプする』*1を見物に。レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』の中に「自分で自分に仕掛けた罠ほどおそろしい罠はない」と云う文がある。この映画は、そういう映画だ。
  • 雨の夜、童貞青年はひと目惚れの激しい恋に落ちる。念願かなって青年は彼女*2と、わりない仲に。最初の女である彼女に、変わらない永遠の愛を誓う。だが彼女は亡くなり、それから20年余が過ぎて、青年は中年の高校教師になっている。或る時、彼は担任する学級の中の少年が、彼女が転生した姿であることに気づく。彼女としか思えない振る舞いをする、だが彼女の面影をさっぱり持たない少年。少年の中に彼女が息づいていることを確かに感じるのに、触れることができない。嘗ての青年は狂おしい恋慕の炎にみずから焼かれてゆき、やがて周囲からは穢らわしい同性愛者だと指弾されるようになる。学校も追われ、家庭にも居場所をなくした彼は、彼女と過ごした思い出の場所を、ふらふらと経巡り始める……。
  • 映画のイ・ビョンホンはたいへん良い芝居をする。『甘い人生』でもそうだったが、それは特に、ルールの判らないゲームに、既にプレイヤーとして参加させられているひと(内田樹レヴィナス論を読むと、これはそのまま人間の定義であるのだが)を演じるときに際立つようだ。
  • 柚子は「少年が、もっと美しかったら……」と呟いた。年季の入った元・腐女子である彼女には、映画の物語は既視感ありありだったようで、「なんだが過去に時間旅行したみたいな、奇妙な感じだった」との由。ちなみに、姑の感想は聞いていない。私は大変、気に入りました。
  • 劇中、印象的に使われるショスタコーヴィチのワルツは、キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』のテーマ曲でもある。ニコール・キッドマンに「ファックしましょ」と云わせてみずからのフィルモグラフィを閉じた映画監督を、私は尊敬している。
  • 南京町をぶらぶら散歩。桃饅を食べるが不味かった。南京町を抜けて、いつもの「味香園」で食事。此処は安くておいしい。それから「花」でケーキセットをデザートに食べて帰宅する。

*1:バンジージャンプする』公式サイト http://www.bungee.jp/

*2:先日みずから命を絶って話題となったイ・ウンジュが演じている。彼女は、姑にはお気に召さなかったようだが、ちょいとクールなおねーさん系の女優が好みの私には、なかなか好ましかった。