- 午前中、三宮へアルバイトの研修に出掛ける。少し古本屋をぶらついてから、姑の病院に。義姉は姪が熱を出したので来られず、代わりに柚子が午後から早引けしして会社からやってくる。
- 夕方、放射線治療を受けるため、看護婦さんたちが姑をストレッチャーに乗せて、潜水艦の中のような放射線科に下りる。柚子と私も付き添う。が、放射線科の人びと、場所と同様、潜水艦乗りのような傲慢不遜な態度で、立腹。主治医と、その補佐の若い女医さん(ちなみに既に二代目である。口許をマスクで覆っている所為でそれが際立つと云うのもあるが、彼女の姑を見る双眸には、いつも無力感が溢れんばかりに湛えられている。市川由衣に少し似ている)もやってくるが、結局、姑の放射線治療は断念、と云うことになる。最低十五分、凝っとしていることに姑は既に耐えられないし、左右両方の肺の気管が以前よりずっと狭くなってきていて----病巣が気管を周囲から押しつぶしている----、放射線の治療を行うと肺炎を起こす可能性が高いから、と云うわけである。
- 病室に戻り、しばらくすると、先日と同様、ベッドに腰掛けていた姑が隣に座るように、と云う。先日姑は私に、義姉が云っていたことだけれど、と前置きして、私に、柚子と生涯、真剣に添い遂げてゆくのかと問うたのだったが----ちなみに、あとで義姉と話すと「私そんなこと云ってない!」、と。それは姑自身の不安だったと云うわけだ。何しろ私は「ボーッとしている男」であるから----、今日は「家財道具」に就いて、だった。曰く、「アンタの家財道具は何でちゃんと納まらんのや?」、と。私に与えられた部屋だけでは収まらず、寝室、廊下へと浸食している本やCDやDVD、ヴィデオなどのことを仰っているのだ。「綺麗に片付けてるよ」と答えると、間髪入れず、「嘘や」。時折われわれには見えないお客さんが病室に訊ねてくることも増えた姑だが、頭は大変はっきりしておられるのである。
- その後、柚子と駅前でスパゲティを食べて帰宅する。
- amazonから500GBのハードディスクとDVDドライヴが届く。
- 御縁があり、『アフタヌーン』2007年の「四季賞」で「谷口ジロー特別賞」を受賞した、及川由美のデヴュー作「赤子」を読む。
- この漫画は、「海」の漫画である。この漫画は、物語が厳しく荒れた暗い海から語り起こされ、透き通った、陽光の溢れ返る穏やかな海で終わる。狂える海も凪の海も、どちらも海であることに変わりはない。そして、主人公である「赤子」そのものが、海からやってきた少女であり、彼女は海そのものである。だからこそ、彼女は「山」の狂気とも対峙し、圧倒さえしてしまう。そして何より、この漫画にはむせかえるほどの熱が溢れている。これを何が何でも描き切らなければいけないと念じただろう、描き手の「今」を突き破ろうとする想いが、画面に叩き付けられている。私もやらなきゃ、と云う気持ちを与えられた。