ひきはじめ。

  • 中野重治の「鑿」「手」「歌のわかれ」の三つの短篇からなる『歌のわかれ』を読み終える。作中で動きまわる主人公の外界に対する神経の働きと云うものは、殆ど過敏と云うくらいに、微妙な世界(自身の裡を含みこむ)の震えを感じ取るのだが、それを小説のなかで表現している中野重治の言葉の使いかた(イメージの作りかた)はきわめて大胆で、しかしこれほどの微細の動きは、それほどの大胆さでなければ捉えられないだろうと云うのは確かで、中野の言葉の感覚に、驚く。中野重治の小説を駆動させているのは、しかし結局ジャンルで分けることのできない、すぐれた詩人としての彼なのだろう。
  • 洗濯機を廻し、洗濯物を干す。
  • 夕方、いつもより少し早いくらいの時間に柚子が帰宅したが、熱っぽいとのことで、疲れた顔をしている。
  • そのまま私はアルバイトに。
  • 帰宅して、眠っていた柚子を起して、すき焼きを食べる。柚子が風邪ひきで、手っとり早く野菜を摂りたい(そして料理をつくるのはウチでは彼女しかできない)ためである。そして、食後、彼女は風邪薬と胃薬を呑んで、温かくして眠る。
  • 真夜中私は、中野重治の「吉野さん」を読み終える。小説なのか随筆なのかとか、もうそんなことはどうでもよくなってくる。ただ中野重治の文の運動だけが刻まれているふう。