『私立探偵濱マイク「名前のない森」』をみる

  • 最近、青山真治を再見しなければいけないような気になっていて、手始めに、借りてきたDVDで『名前のない森』をみる。敢えて「笑い」を生じさせないという脱臼をやっているのであるとみることもできようが、むしろ、青山真治は決定的に「笑い」を撮ることができないのではないか? 
  • しかし、この映画で最も素晴らしいのは鈴木京香なのである。丘の上に、西部劇に出てきそうな古風な深紅のドレスを着た鈴木京香が、すっと立っていて(ショットガンを携えていないのが不思議なくらい)、その手前へ赤い車が滑りこんできて止まる、というところ(最高!)や、煉瓦づくりのベランダで佇んでいるさま、そして、まるで洗礼者ヨハネのように天を示す指のサインをつくってみせる最後のショットなど、どれもきわめて完璧な絵になっている。
  • そして、まだ菊地百合子を名乗っている菊地凜子も出ているが、やはり大変可愛らしくて、青山真治はとても女を撮るのが上手なのではないかと思う(下手であると云われることが多いと自身が語っていたはずだけれど)。
  • もちろん、肝心なのは、たむらまさきの撮影で、ぱりぱりに乾ききった空気のなかを透る光を、フロントガラス越しの高速道路、70年代の初頭あたりに建てられたふうのホテル、白樺の森などの、それぞれ異なる場所で、巧みに引きずり出している(もう少しそのまま静止していたら完璧な構図なのだが、ふにゃっと、キャメラを動かす。そういう瞬間が何度かある。しかし、それがいいのである。そのとき、映画にしかできないことが始まっている。だから、その「ふにゃっ」を切らない編集をする青山真治は、もう少し信用してもよいのではないか、というような気もする)。
  • 夕方から、自転車を漕いで隣町の駅前までゆき、そろそろなくなる「しま」のごはんを買い、本屋を覗いてから(奥波一秀の新刊がクナッパーツブッシュに続いてフルトヴェングラーで驚く)、そのままアルバイトへ。
  • 帰宅して、柚子と晩御飯を食べ、ネットで、諏訪敦彦の短篇『黒髪』*1をみる。
  • 眠る前に、「しま」を暖房の効いた寝室へ連れて行き、ベランダの洗濯物を取り込み、蒲団に入って『精神現象学』を読み進める。暫くして眠ってしまう。