• 仕事を終えてすぐ近くのミスタードーナツに入り、カフェオレをがぶ呑みしながら伊藤彰彦の『映画の奈落 北陸代理戦争事件』を一気に読む。松方弘樹の演じた川田のモデルとなった北陸ヤクザの親分川内弘が、数ヵ月後、自身が襲撃されて殺されるいきつけの喫茶店の寸分たがわぬセットで、じぶんが襲撃されるシーンの撮影を笑いながら見学していたことだとか、渡瀬恒彦の代役には最初「『愛のコリーダ』で話題を巻き起こした藤竜也に出演」を依頼したことだとか、あの全篇雪景色の映画の除雪(または雪が少ないところにはトラックの荷台に積んだ雪を盛る)作業は組員たちが「『北陸代理戦争』を「自分らの映画や」と思って」黙々と行っていたことだとか、大変面白いエピソードが次々出てくる。しかしこの本の白眉は、親分を殺されて菅谷政雄に報復するため、「暁の七人」と名づけて大阪に潜伏してじっと暗殺の機会を窺っていた川内の子分たちが、久しぶりの息抜きに出かけた新世界で、菅谷が川内を破門する引き金となり、けっきょくじぶんたちの運命を決めた映画『北陸代理戦争』を「日劇会館」でみるところである。高田宏治を描くのだったらその手法はむしろ笠原和夫式であるべきではなかったかとか、たぶん書けなかったんだろうが書かれていないことの幾つかが気になったり、その書きぶりに対しては、ときどき立ちどまることもある本であったが(じぶんならどうするだろうと考えるわけだ)、このシーンでのパッションの大爆発を描くために総てがあると云ってもよいくらい。