• テレビの前の椅子に陣取っている「しま」を抱っこする。「しま」を抱えたまま、彼女の温もりのある座面に腰掛けて、テレビ台に載せてある小さな爪切りをとる。膝の上に乗せた「しま」の足先を柔らかく握って、飛び出した爪を切る。彼女はとても親切なので、黙って爪を切らせてくれる。なので、絶対に痛くしないようにしなければならないと思って、いつも注意しながら切っている。
  • 最近、爪を一本切るたびに、ちょっと上を向いて頭を動かして、眼鏡をずらしている。そうしないと、次の爪に移るとき、小さくて半透明の鉤の先を、うまく注視できないのだ。老眼がやってきているのは、もうこの眼鏡にかえたときから知っていて、この眼鏡は、いつか老眼鏡に移るための準備用でもあるのだが、こうやって十五年ぐらい、眼鏡は二三度変えたが、ずっと「しま」の爪を切っているのである。元気でいてくれて、とてもありがたい。