• 仕事の帰りにシネマ神戸でライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの『不安は魂を食いつくす』を見る。ほとんど露悪的なまでに悪意や差別や裏切りや傲慢が描かれ、どんなに虐げられている人たちもそれらから自由であることはできない。しかし、それでも、指先からさらさらとこぼれ落ちてゆく優しさや愛情を何とかして掴んでおこうと足掻く映画でもある。雨上がりでしとどに濡れていて、彼ら以外誰も坐らないカフェのテラス席で夫婦が向かい合っているシークェンスでは、黄色っぽいテーブルが画面を埋めていて、妻の慟哭に耳を傾ける夫のスーツが濡れて染みになっている。その濃い鼠色の美しさ。
  • どの画面も充溢していて、とても素晴らしい映画だった。