• ノーランの『TENET』をAmazonのプライムビデオで再見する。操車場の、上りと下りで貨車が行き交う間で、CIAがロシアのマフィアに拷問されているシークェンスは本当に素晴らしい。これをずっと見せてくれるだけでいいのに。それをやる胆力も覚悟もノーランは持ち合わせていないので、細切れにして繋いで、派手な音で、大きな画面で上映して、これこそが映画の体験だと嘯くのだ。『TENET』は、ノーランの良さも駄目さも全部もろに出ている映画で、だから今のところノーランでいちばんいい映画だと思うのだが、それは設定そのものが小細工のきわみで、小手先の編集ごときでは逃げられない制約のゆえだろう。もちろん、デジタルカメラで撮ることが当たり前になって、ワンショットの長回しなんか何の計画もなしにやれてしまうので、それさえやれば映画ならではの体験が滴り落ちるなんてことは言えない。だからこそ、編集というものの力をどう解き放つかということが、ますます映画において大切になっているのだが、それがノーランのような方向性であるとは決して思えない。