- キム・ジウン監督の『甘い人生』*1を観に、柚子と柚子の母と共に出掛ける。姑が、イ・ビョンホンの大ファンなのだ。「嗚呼、もうちょっと背丈があれば……」と、毎日ため息を吐いている。韓流ブームなんぞ興味の埒外だが、イ・ビョンホンは良い声をしているので、私も嫌いではない。
- さて『甘い人生』だが、過剰な暴力シーン満載。姑は途中で一度、気分が悪くなって席を立った。柚子もなるべく見ないようにしていたとか。しかし、そういうシーンには笑いの粉がこってりとまぶしてある(その所為で余計にえげつなさが際立つのかも知れないが)。殺し屋は小西康陽に似ているし、その相棒のモップおばさんも強烈。敵対組織の若い組長は、銃撃されてスケート・リンクの氷の上を踊る。武器の密売屋はいきなり仲間同士で口喧嘩を始め、電話一本でクルマごとぶっ潰される。しかし何が驚くって、マニア好みなソ連製の軍用拳銃スチェッキンが出てくるのだ! ソ連軍の特殊部隊等に支給された、拳銃だがフル・オート射撃も可能なバケモノじみた銃だ。ちゃんと専用の木製ストックの中に収まって登場する。通常分解のシーン(実に笑える)まである。残念ながらフル・オート射撃はなかったが、手負いの野良犬と化して、嘗ての飼い主の手を噛みまくるイ・ビョンホンがこいつをドカドカ撃ちまくる。
- 「私の欲望は他者の欲望である」とラカンは云ったが、イ・ビョンホンは、じぶんが何を欲しているのか、何も判らない男の役を丁寧に演じている。彼は、亀裂が走って常態とは異なった相の世界に放り出されて、小突かれ、押し流されてゆくだけだ。彼を追い詰める親分を演じる、ちょっと佐藤慶(或いは凶悪なポール牧)に似ているキム・ヨンチョルも良かった。
- ところで、姑の横で私もちょいちょい見ているから知っているのだが、韓国ドラマと云うのは、とても保守的だ。端的に云えばそれはセックスとヴァイオレンスの徹底的な消毒だ。恋愛と殴り合いは描かれるが、絡み合う肉体と壊れる肉体は決して描かれない(私が見た限りで、だが)。その反動か棲み分けなのか、韓国映画ではしばしば、箍が外れたように性交する肉体と欠損される肉体が描かれる。この映画は、後者の典型だった。
- 三人でお茶を飲んで帰宅する。
*1:『甘い人生』公式サイト http://www.amaijinsei.com/