『僕のピアノコンチェルト』を観る。

  • 朝起きて、MR氏から頂戴したベアート・フラーを繰り返して聴きながら、ベランダと私の部屋のあいだの框のへりに腰を掛けて、爪を切る。ベランダの隅に置いた鉢のなかでは二匹の金魚が棲んでいて、さっき餌をやったばかりなのだが、ひとの気配がしなくなったからだろう、すうぅっと浮かんできて、餌を飲み込んではぶーっと吐き出したりしながら、ゆらゆらと揺れている。あんまり気持ちの良い風景だったので、もう少し近くで見ようとふらっと立ち上がったのがいけなかった。吃驚して、水草で底の見えない鉢の底のほうへ、二匹とも潜り込んでしまう。
  • やがて、雨の夕方、烏丸の京都シネマで、フレディ・M・ムーラー監督(そう云えば私は蓮實重彦が『映画に目が眩んで』で絶賛している『山の焚火』を観ていない。確か梅田のツタヤにヴィデオがあったはず)の『僕のピアノコンチェルト*1を観る。原題は『ヴィトス』で、それは主人公の天才少年の名前である。抜群の数学の才能に恵まれていて、ピアノに取り憑かれているヴィトス君と、神童を与えられた父と母、ヴィトス君の「親友」であるお祖父ちゃん(ブルーノ・ガンツが大変愉しげに演じている)たちを巡る、とてもよくできたファンタジィ映画だった。であるから、ヴィトス君(幼年期と少年期をふたりの男の子が演じているのだが、特に幼年期の坊やがとても可愛い)が「星の王子さま」の挿画がプリントされたシャツを着ているのは、偶然ではあるまい。話の運びのテンポは良く弾んで、澱みがない。シンプルだが美術も作り込まれている。役者たちの芝居も見事で、邦題からは想像もつかないが、愉しい映画だった。
  • 岡田利規の「わたしの場所の複数」を読了。見事な傑作である。